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エニシダ



「黄色い花は 強いねぇ」」
夕暮れどき、日当たりの悪い 猫の額ほどの広さの中庭を
鮮やかな黄色でパッと華やかせて咲いた山吹の花を
手水鉢越しに眺めながら、
そう 祖母が話していたのを思い出します。

その 遠い遠い記憶が、さるすべりの木と金木犀に挟まれながら
低めの塀を歩道へ乗り越えて咲くエニシダのまっ黄が
朝日の低い陽射しに輝いている光景に接して、
蘇りました。





このエニシダは、鉢植えだったのを ライラックの横に地植えしたもので、
その成長の強さに押されて ライラックは枯れてしまった、
そう思い込んでいました。

たしかに、黄色の花をつける草木は 強いように思います。
菊もヒマワリも、強いですね。
土手一面を黄色で覆い尽くす セイタカアワダチソウは、
その強さゆえに毛嫌いされがちです。

でも 祖母は、そんな意味で 「黄色い花は 強いねぇ」と
言ったのではなかったと思います。
あの庭に咲いていた山吹は、猫の額のように狭くて日当たりの悪い
あの場所で生えたい、そう思って生えたわけではない。
与えられた地で生きて こんなにきれいに咲いて、健気やなぁ。
祖母は、そう言いたかったのでしょう。

このエニシダとて、ここに生えることを選べたわけじゃない。
ぼくが、花の時期を過ぎた鉢植えのエニシダをそのまま枯らすのならば と、
この場所に地植えしたに過ぎない。
ライラックが枯れてしまった責任を エニシダに
一時的にでも負わせたことを、
祖母の言葉を思い出して いま、後悔しています。


エニシダは、清らかな香りがします。
惑わすような香りではなく、自然にほっとさせてくれる 淡い香りです。
家内は、匂わないと言います。
ぼくだけの香りにしておきましょう。


トップへ Nobuhiko Yamada