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名も判らぬ移植古木



昭和15年 千本五辻通から西大路姉小路に工場を移転。
私の生まれる5年前である。






五辻の自宅から西大路の工場に隣接した居宅の 猫の額のような中庭に この古木は移植された。
運び移したものはほとんど何もなかった、と 祖母が話していたのから察するに
よほどこの古木には何か深い思い入れがあったに違いない。

昭和57年 現在地に工場を移転するとき 惜しげも無く身の回り品を捨てた母が
この古木だけは持って行って欲しいと譲らなかった。
その訳を聞かず仕舞いで 母は逝ってしまった。






街中を歩いていると 解体される古い民家の庭の木が
ショベルカーでなぎ倒される光景に出くわすことがある。
木の悲鳴が聞こえるようで とても悲しい気持ちになる。
その木にも その家のあるじの深い思いが篭っているような気がしてならない。


移植したこの古木の名を いまだに知らない。
調べようとしたこともあったが 熱意の足りなさで判らぬままである。

花をつけ 実のなる木を好んで 植え足してきた工場の周りの木々の中で
花も実も成るかさえ気にも留められぬ木が この木である。

私にしか その大切さを理解してもらえぬ木である。

出来ることなら 朽ち果てるまで残しておきたいと思う。






移し木の 朽ちかけ幹に 故事辿る (佐々連)

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