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メインテナンスの時代

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去年の夏に起きた 米ミネソタ州ミネアポリスの橋梁崩落事故を、覚えてられるでしょうか。
カナダに近い ミシシッピ川上流に架けられた、40年の高齢化した橋の 大事故でした。

喉元過ぎればなんとやら で、当時 急に盛り上がった 老朽化しつつあるインフラに対するメインテナンス気運は、いつのまにか 忘れ去られようとしています。


どんなものにも 必ず寿命があり、形あるものは いつかは必ず壊れます。
それは 紛れもない自然界の鉄則であり、わたしたち人間が作り出すものも 遅かれ早かれ 必ず壊れるものなのです。


人類は、これまで 数知れない失敗から多くのものを学びつつ、こんにちの機械文明を築いてきました。
例えば、あの悲惨な 豪華客船タイタニック号の沈没事故から 低温脆性という 「脆性破壊」 原因を突き止め、この教訓を ものづくりの教科書として、その後の脆性破壊事故を 激減させました。

機械工学に携わってきた 一介のものづくり屋であるわたしも、もろもろの優れた先例から多くのことを学び、失敗しては反省し改良して より良い製品を作ってきましたが、行き着くところは、どんなに費用をかけて作っても どんなに時間をかけて作っても 人間の作ったものは「いつかは壊れる」 という前提に立たなければならない、ということでした。


人のやることには、必ず落ち度があります。
それは、技術の落ち度というだけでなく、予測の限界という意味も含んでいます。

冒頭に述べた 米ミネソタ州ミネアポリスの橋梁も、当初は100年は大丈夫という設計で建設されたものでしょうが、強度的には正しかったかもしれない当初設計も、例えば、気象的な条件、それも気温や湿度といった 自然現象に対しては 考慮がなされていたにしても、橋の上の凍結を防ぐために 冬季に大量の塩が撒かれるという想定は、おそらくしていなかったでしょう。

この橋梁事故の一つの原因が 撒かれた塩による腐食にあったかどうかは 最終的に確認していませんが、この世の中には 人間の英知をもってしても 予測不可能なことが あまたあることは事実です。


新幹線こだま号の開通は、日本列島に多くの恩恵をもたらしました。
こだま号に続いて、ひかり号、のぞみ号 そして近い将来 リニアモーターカーと、時間短縮における 人間の欲望は 終わりを知りません。

その欲望が高まるほど、時間短縮で得られる恩恵に比べ それがもたらすマイナスエネルギーが増大し、果たして人間の幸せに ほんとうに貢献するのか疑問です。

こんにちのインフラのような巨大設備では、先に述べたような 「失敗に学ぶ」には あまりにも被害が大きすぎますし、たとえ失敗に学ぶとしても、原因究明、改善計画、そのテストと、一定の長さの時間を要します。

失敗を生かすにも、「時間」 という肥やしが、どうしても必要なのです。


コンピュータ社会である現在、まじかに知る由もありませんが、セイフティーネットは縦横に張り巡らされているに相違ありません。
それでも、わたしは 恐怖を覚えます。
ひとつ間違えれば どえらいことになるんじゃないか と、無知のなせる とり越し苦労をしてしまいます。

巨大インフラの “守り” を、真剣に考えるべきときです。
米ミネソタ州ミネアポリスの橋梁崩壊事故は、その警鐘でした。
こんな大切なことを、風化させてはなりません。

もう 新たなインフラ建設はほどほどにして、既設のインフラのメインテナンス体制を 国家レベルで真剣に取り組まないと、どえらいことになります。

いま、メインテナンスの時代との認識が、慎重にしかも早急に 求められているのです。