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ニューイヤー・コンサート

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娘がクリスマスプレゼントにくれた、ニューイヤー・コンサートのチケット2枚。
きのう、当日まで どういうコンサートなのかも知らないまま、大阪福島の ザ・シンフォニーホールへ行ってきました。

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団、ウィンナワルツやポルカを最上級に聴かせてくれる オーケストラなんだそうです。
毎年 お正月に、サントリーホールをはじめ 日本各地でウィーンの薫りを届けてくれる、日本人にはおなじみの楽団、 それを知らないまま のこのこ出かけて行ったのは、わたしたち夫婦ぐらいなものだったでしょう。

出かける前の予想とは違って、コンサートの苦手なわたしも リラックスして聴いていられる、めっちゃ楽しい楽団で、こんなんやったら また来たいなぁ思いました。

指揮者ルドルフ・ビーブルは、もう80歳をこえるはずですが、とってもチャーミングで お茶目で 観客へのサービス精神旺盛で、なによりも楽団員ひとりひとりへの思いやりが じわーっと伝わってきます。
楽団員も みんなニコニコしていて、演奏しながらコーラスなんかもやったり 素敵に独奏した楽員へ ウォーっと喚声あげたり・・・
オペレッタのさわりも 味わえました。
ソプラノのナターリア・ウシャコーワ、テノールのメルツァード・モンタゼーリが加わって、オペレッタ 『こうもり』 や 『メリー・ウィドウ』 などを 表情豊かに歌い演じてくれました。

いちばん幸運だったのは、隣の席に座った このとき限りの 「お仲間」 です。
70歳くらいの ちょっと小粋な 薄茶色のトンボメガネをかけた “おじさま” で、演奏の最初から最後まで 身を乗り出して、 音楽にあわせて体を動かせ 拍手と 「ブラボー」 のタイミングが絶妙で、心底コンサートを楽しんでいるのです。
礼儀正しく、ニコニコしながら わたしたちに うちとけて話しかけてくれます。
良い演奏会というのは 奏者と会場がすばらしいだけではダメで、観客や聴衆の質に拠るところのほうが大きい、 と 何かの本で読みましたが、ほんとうにそうだと思いました。
トンボメガネのおじさまのおかげで、わたしたちも 最高に心地よい聴衆でいられました。

にわかクラシックファンになったつもりで えらそうなこと言いますが、モーツアルトもいいけど、ヨハン・シュトラウスも すばらしい。
「エジプト行進曲」 って はじめて聴いたんですが、お気に入りに入れたいです。
「美しく青きドナウ」 では、目を閉じて 聴きました。


心が洗われるというのは こういうことなのだろうなぁ、そんな心地のとき、ふっと先日みた山田太一のテレビドラマ 「ありふれた奇跡」 の1シーンが思い出されました。
駅のホームに立っている、陣内孝則演ずる中年男の 底なしに寂しい姿です。

ドラマでは、自殺しかけの彼を危く助けるのは 仲間由紀恵と加瀬亮の 互いに見知らぬ若い男女でしたが、 あの中年男が あの瞬間 この 「美しく青きドナウ」 を聴いたら、どうなっていただろう、 そんな どないでもええことを思っていたのです。

森山直太郎が歌う 『生きてることが辛いなら』 の歌詞のように、人はみんな 一度や二度は “小さく死んで” いるのです。
迷惑のかからないように 小さく死ねるのは、こんなに心洗われる 「美しく青きドナウ」 のような 人間の人間のための 遺産があるからかもしれません。

そんな遺産を享受できる機会に恵まれたことに 感謝しながら、夕暮れ迫る西梅田のビルの谷間を 家内と歩いて、梅田駅に向かいました。