葉落帰根 |
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『あの戦争から遠く離れて』 いま、毎週土曜夜9時に放映されているNHKドラマ『遥かなる絆』の、原作小説名です。 作者は、1976年
四国八幡浜生まれの 中国残留孤児二世
城戸久枝。
中国残留孤児への感情移入が激しいわたしは、中国残留孤児二世である城戸久枝という若者の目を通して、ある意味
覚めた眼で、考え直す機会を得ることができました。 中国残留孤児への思い、ひいては、日本と中国との
ここ80年の因縁的な関係を、『遥かなる絆』からは映像で、『あの戦争から遠く離れて』からは文面から、冷静に しかも より正確に
眺めることができたように思います。
この実話物語から、わたしは
大切な言葉を知ることができました。 「葉落帰根」 これは、久枝(ドラマでは鈴木杏)が、中国吉林省の吉林大学で学ぶかたわら
中国残留孤児たちやその家族に日本語を教える短期臨時講師を務めたときに、その生徒のひとり、李さんという日本語の上手な50代男性が、日本へ帰りたい思いを込めて
語った言葉です。 葉が落ちて根に帰る、他郷をさすらう者も落ち着く先は故郷である、そういう意味の言葉だそうです。
この言葉に出会ったとき
わたしは、姜尚中氏の自伝『在日』にも
同じような言葉があったことに気づきました。 「落地成根、落葉帰根」 在日一世である姜尚中氏の父の気持ちを推し量って、表現された言葉です。 姜尚中氏は、父の、望郷の無念と同時に
深遠な諦観に似た安らぎを、この言葉で表現したかったのだと思います。
「葉落帰根」も「落地成根、落葉帰根」も、思いは同じ、止むに止まれぬ望郷でしょう。
城戸久枝の父
城戸幹氏や 姜尚中氏の父の、血を吐くような思いからは程遠いでしょうが、わたしたちは
みな、この世に生れ落ちた瞬間から、「葉落帰根」の心情を宿して、生きているように思います。
「土に還る」というイメージを、聖路加病院の日野原重明先生は、こう説明しています。 「わたしたちの肉体の成分、カルシウムやマグネシウム、リンといったものはみんな、土の成分と一緒です。亡くなると同時に魂が体から抜けて、その魂はどこへいくかわかりませんが、体は地球へと還っていく。だから
わたしたちは、死んだら土に還るというイメージを 知らず知らずのうちに覚えているのでしょう。」
「葉落帰根」 また
ひとつ、好きな言葉が増えました。
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