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雨やどり

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8月1日午前11時 京阪電車伏見稲荷駅を降りると、空は急に暗くなり 激しい雷雨となった。
毎月1日、家内と続けている お稲荷さん参りの途中である。
改札口を出たところで、雨やどりする。

雨やどりびとが いつの間にか20人くらいになり、横ぶりの雨を避けようと 庇の奥へと移動して、狭い改札口に ひとかたまりの集団ができた。
バスケのボールケースを担いだ高校生の男の子が、携帯で親しげに 傘を持ってきてくれるよう頼んでいる。


止みそうにも ありませんねぇ。
ズボンの裾を二つ折りした 参拝者らしき初老の隣びとが、少し中腰になって うわ目使いで黒い雨雲を見上げながら、不特定相手のもの言いで、わたしにこう言った。
わたしが それに相槌を打ったものだから、こんどは わたしをまともに見ながら、彼は こう続けた。

いつもは もう少し早く参拝するんですが、出かけしなに 孫から電話がかかりましてね、誕生日祝いの品物のむずかしい名前を覚えるのに 一苦労しましたゎ。

同類と見透かされてか、孫の話を 一通り聞かされた。


携帯で傘を要求した高校生の母親だろう、ひゃー!と 頓狂な声を上げながら、改札口の一団の中に飛び込んできた。
肩やら足元やらが、ずぶぬれになっている。
手には 大きい目の雨傘が握られていた。
高校生の男の子の顔に、ちょっと恥ずかしそうな でも うれしそうな表情が走る。
母親も、雨脚のおさまるのを待つ態勢になっていた。


ななめ前の 背のすらりと高い女性が、しきりに時計を気にしている。
襟足のきれいな女性だ。
雨脚がちょっと激しさを途切れさせたとき、意を決したように 隠れ切れない携帯傘に身を隠して、改札口を飛び出していった。
その直後、バリバリっと雷鳴が響いた。


雨やどりという たったひとつの共通点で 集まった人の群れ、この儚い集いを、わたしは とてもいとおしく思う。