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風そひて 更に明るし 大文字 (常悦)



盆明けの8月16日の夜、京都東山如意ヶ嶽の山腹に、薪に火を点じて書く 「大」の字形の送り火。
8時点灯の 「右大文字」を皮切りに、「妙・法」の文字が下鴨本通り北端て松ヶ崎の東西の山に、大の字の反転の文字 「左大文字」が 金閣寺裏山に、舟形の火が西賀茂船山に、鳥居の姿火が 嵯峨鳥居本・曼陀羅山に、次々と点ってゆく。

高い建物や看板のせいで、これら五山の送り火を全部眺められる場所は、ごく限られてしまった。
それでも 京の人々は、おじいちゃんも おばあちゃんも 赤ちゃんまで、家族みんな連れ立って 送り火が見やすい場所を求めて、京の街にそぞろ出るのだ。


幼かったころ この時期になると、夏休みが終わりに近づくせいもあって、大文字の送り火は、夏の終わりの 物悲しさを はっきりとした形をもって、脳に知らしめた。

それは、物悲しいのだけれど、常はバラバラの家族の視線が、大文字の点っている たった15分ばかりは、同じ方を見ながら 家族同士を意識しあっている、そんな安心のひととき。
それは、いまも同じ。


しだいに消えてゆく送り火に、だんだん増える もうこの世にいない 懐かしい人びとの面影を思い浮かべ、手を合せる。

来年も 送り火を拝せますように。



大文字 今は消えゆく ばかりかな (不彩)