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古マッチ

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マッチを集める趣味が ありました。

すっかり そのことを忘れていたのですが、納屋にしまい込んだ要らないものを 処分しようと思って 古いガラクタを整理していたら、ハーシーチョコレートの箱の中に 古マッチがどっさり入っていたので、思い出したのです。

懐かしい。
『男爵』、堀川通りに面してあった 喫茶店です。
『定山渓ホテル』、高校のとき 初めて北海道を一人旅して、なけなしの小遣いをはたいて泊まった 思い出のホテル。
そんなたぐいの古マッチが、いっぱい。
擦ったら、じじっ しゅるしゅっるっと、頼りなげですが 点きました。
まだ使えそうです。
仏壇のろうそく用のマッチが切れていたので、ちょうど良かった。
毎日 想い出を反芻しながら、葬ってやれそうです。


映画 『色即ぜねれいしょん』を 観ました。
昭和48年頃の京都が舞台。
原作者・みうらじゅんの母校 東山高校や黒谷さん、古川町商店街、嵐電北野白梅町駅、ニ寧坂・・・
見慣れた風景が、いたるところで映し出されます。
南禅寺北門の鹿ケ谷通り、東側が東山高校で、この鹿ケ谷通りを北へ上がって山側に入れば、ノートルダム女学院高校があります。
この南禅寺北門付近で、下校途中の東山高校一年生の主人公・乾純は、(たぶん)ノートルダム女学院高校生の足立恭子とすれ違います。
時代は この映画の一回り12年ほど前ですが、あの場所は わたしにも忘れがたい想い出が詰っています。
たぶん 思春期を京都で過ごしたものにとっては、同じような思い出を抱かす場所ではないでしょうか。
そして あの時代の貧しい若者の 頼りになる旅宿であった、ユースホステル。
そのユースホステルで触れ合った 数々の人たちや風景。
さよならだけが人生さと 嘯くにふさわしい、ホステルでの かりそめの一夜・・・。
この映画には、青春がぎっしり詰っています。

おじいさんも おばあさんも、青春時代がありました。
当たり前なことなのですが、回りのものは 彼らが若者だったことを 知らないし、知ろうともしないでしょう。
だいいち 本人の彼ら自身、自分達が若者だったことを 忘れてかけています。
でも 彼らもまた、間違いなく 甘くて苦い青春時代を 通り過ぎて来ました。
そのことを この映画 『色即ぜねれいしょん』は、見るものに思い出さてくれるのです。

古マッチを擦ると、干からびかかったマッチ棒が 弱々しい炎を燃やします。
指先が厚くなるまで、しばらく その炎を見ていました。
青春の対称語の 「赤秋」色は、この炎のような色を言うのでしょうか。