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ヒガンバナ

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ヒガンバナの花言葉は、「悲しい思い出」。

ヒガンバナにまつわる思い出を 書き記した、新聞の投稿欄を見ました。
投稿者は、55歳の女性。
彼女もまた、ヒガンバナにまつわる 花言葉ぴったりの思い出を いっぱい持っていました。
そのことだけで、彼女と会って 話をしてみたくなりました。
わたしと同じような、花言葉ぴったりの思い出だったから。

ちょっと郊外へゆくと、田のあぜ、堤、墓地などに叢がり咲くヒガンバナ。
秋が近づくまで 地表には何も生えてこないのに、お彼岸になると 時を忘れず、真っ赤な花を咲かせ、それを見る者は、あぁもう秋 と納得します。

わたしにも、投書の彼女と同じ想い出があります。
ヒガンバナを摘んで家に持って帰ったら、「死人の花だから捨ててきなさい」と 祖母に叱られました。
いつもは優しい祖母なのに、だから大好きな祖母なのに、なんでそんな理不尽なことを言うのだろう と、そのときだけ祖母が嫌いになりました。

不吉と忌み嫌われた理由は、毒草だから だけではないようです。
土葬の死体が、土に穴を掘るモグラなどの小動物に荒らされないよう、墓地の周りにヒガンバナを植えた 有毒ゆえの慣わしに拠るのかも知れません。
花が咲くときは葉をつけず、葉のあるときには花を咲かせないヒガンバナは、その細身の反り花の妖凄な容姿から、陰気な雰囲気を漂わすからかも知れません。
それでも わたしは、踏めばたちまち摧ける この淋しげな花が好きです。

投書の彼女も、ヒガンバナにまつわる思い出の一つとして、新美南吉の 『ごん狐』の中の 一場面を挙げています。
村の葬式に出くわしたごん狐が、墓地で見たヒガンバナ。

・・・墓地には、ひがん花が、赤い布のように さきつづいていました。・・・葬列は墓地へはいって来ました。
人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。・・・

別名、曼珠沙華。


曼珠沙華 抱くほどとれど 母戀し (汀女)