YAMADA IRONWORK'S 本文へジャンプ
二つのピアノ演奏会から

文字サイズを変える
文字サイズ大文字サイズ中



最近、二つの小さなピアノ演奏会に でかけることができました。

一つ目は、京都コンサートホール小ホールにおいて 「ピアノ詩集~また逢う日まで~」 というタイトルで催された 小原孝さんの演奏会。

小原さんは、クラシックピアノの奏者として 一流の実績を持つ名手ですが、日本の歌謡曲や童謡を 好んで取り上げて演奏し、とりわけ 日本を代表する名作詞家の手がけた曲を演奏するコンサートを続けています。
異色とも言える活動には当初 厳しい批判もあったようですが、阿久悠さんといっしょの仕事で 彼から 「日本語でピアノが弾ける人なんだね」 と賞讃され、そのひと言に勇気付けられて 異色の演奏路線を貫けた、ということです。

今回の演奏会では、阿久作品の曲を たくさん聴くことができました。
思秋期や舟唄など、ピアノから流れるメロディーから 自然に歌詞が涌いてきて、同時にそれら一つ一つにまつわる想い出が こみ上げてきます。

わたしたち普通人が 普通に体験する阿久作品の感動を、小原さんの洗練されたセンスで昇華して、クラシックピアノという強力な手段を用いて再び、わたしたち普通人にも理解できる より高尚な感動体験として伝えてくれます。
それは、原形の阿久作品以上に豊かな想像力を、わたしたちに醸し出してくれるのです。
小原孝ピアノの魔術でありましょう。


二つ目は、京都文化博物館別館ホールで催された ピアノと朗読の夕べ。
ソロリサイタルを通して 関西と岩手をつなぐ音楽で活躍している、キョート・ミュージック・プラス主宰の萩原ゆみさんのピアノ&ピアニカと、視聴障害者への朗読ボランティア活動を通じて 身障者にも健常者にも生きる力を与え続けている朗読者、庵原(いおはら)万喜子さんの朗読との、コラボレーションです。

会場の文化博物館別館は、旧日本銀行京都支店の建物で、国の重要文化財になっているそうです。
板張りの広い床には、グランドピアノと 数十脚の椅子があるだけ。
暗照明の重厚な雰囲気の中を、萩原ゆみさんの弾むピアノ音が 満ち溢れます。
庵原万喜子さんの 突き抜けるような朗読が、冴え渡ります。

萩原ゆみさんの はにかむような人懐っこさと、庵原万喜子さんの 温もりある人間の腹の底から湧き出るような声が、この厳かな雰囲気を とても親しみ深くしてくれているのです。

味わい深い演奏会でした。


これら二つのピアノ演奏会で感じたことは、やはり ピアノの魅力です。
いろんな楽器があるし それぞれ魅力的なのですが、ピアノには どの楽器も及ばない 総合的な魔力が備わっています。
そして 二つの演奏会のピアニストとも、磐石のクラシックピアノ技術の基礎があり、その基礎の上に 彼ら独特のポピュラーなアレンジで、普通人の心を捉える魅力を作り出しているのです。


ピアノって ほんとにいいなぁ、と思いました。