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「私の中のあなた」

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アメリカ映画 『私の中のあなた』を 観ました。
人に薦めたい度 94%という広告も頷ける、とてもいい映画でした。
かってのエリア・カザン作品のような 高質のアメリカ映画に、久々に会えた思いです。


ニック・カサヴェテス監督の前作 『きみに読む物語』も そうでしたが、この映画には 悪意をもった人は ひとりも登場しません。
自分で迷って 自分で考えて、こうと思ったことを 精一杯やり抜こうと、みんな懸命に生きています。
人を傷つけることも、多々あります。
でも 誰も、それを非難することはできないのです。


この映画のテーマは、ひとりの子を助けるという目的のために 別の子を産み育て、その子にドナー役を押し付けるという、倫理的に ものすごく重いものです。

でも カサヴェテス監督は、シリアスな描写になり過ぎないよう、繊細に しかも軽妙なタッチで、免れない死を絆とした家族愛として、このテーマを昇華しています。

家族それぞれの想い そのすべては皆んな 大好きな家族のためだった との、最も優しい結末へと導きながら。


母親サラ役のキャメロン・ディアスは、これまで抱いていた彼女のイメージとは 別人のようでした。
あのファニーフェイスが、急性白血病という難病の子供を持つ そしてその子を生かすことだけに必死に生きている ひとりの母親の顔に なりきっています。
『メリーに首ったけ』 や 『チャーリーズ・エンジェル』から 偏ったイメージを抱いていたわたしには、見事な変身にみえました。


母親役だけでなく 家族それぞれを演じている俳優みんなが、すばらしい演技を見せています。

母親を提訴する次女アナ役の アビゲイル・ブレスリン、白血病の長女ケイト役の ソフィア・ヴァジリーヴァ、ケイトとアナの間の息子ジェシー役の エヴァン・エリングソン、サラの夫ブライアン役の ジェイソン・パトリック、みな ほんとうの家族みたいです。


泣かずにはいられませんが、お涙頂戴の映画ではありません。
サラがすべてを犠牲にして闘っている 決して避けられないもの、死を、正しい諦めの作法をもって 真剣に考えずにはいられません。

この映画の良さは、避けることのできない死を ちゃんと向き合って考えるだけでなく、死と泣きながら向き合った後に 何か温かいものが、確実に生まれることです。


見逃したら、損しますよ。