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牛の鈴音

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     ドキュメンタリー嫌いの人にも お勧めします。
     淡々とした 押しつけがましい所のない 本当に良心的な映画です。


これは、写真家・ホンマタカシ氏の、映画 『牛の鈴音』 へのコメントです。

ホンマタカシの撮った波の写真は、淡々とした 押しつけがましい所のない 本当に良心的な映像なので、このコメントは ぼくには効きました。

映画 『牛の鈴音』 を 観にいってきました。

ぼくは 最近、「生き甲斐」って言葉が 空しく響くようになっていますが、この映画を観て、生き甲斐なんてクソ食らえという思いが、腹の底から湧き上がってきました。


40年間 足の悪い主人の手足となって働き続けてきた老いぼれ牛の 悲しげな目にじっと見つめられて、暗い映画館の中は ぼくとこの老牛だけの世界になっていました。
ただただ生きるだけの この老いた牛に、その生きざまに、深く深く心を奪われていったのです。

老牛が動くたびに鳴る鈴の音は、生きていることの ささやかな証です。
頭痛で倒れたお爺さんが 牛の鈴音に はっと目で気配を追う場面で、生きるってことは このささやかな鈴の音なんだと 気付きました。

『八月のクリスマス』 以来 韓国映画に親しみを感じてきましたが、『牛の鈴音』 を観て、その思いは 揺ぎないものになりました。
『牛の鈴音』 は、西洋人には作れない作品だと思います。
極東アジアの民族にしか判らない悲しみを、韓国映画が見事に映像化してくれました。

最後の力を振り絞って 老牛が運んでくれた薪の山を見て、目がしらから温かいものがあふれてきました。
チェ爺さんがあんなに気にかけていた鈴の音が、映画館が照明で明るくなってからも、耳の奥底でチリンチリンと鳴っているようでした。