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霧笛

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また ひとつ、遠い音が消えました。

明治の昔から霧笛を鳴らし続けた 海上保安庁の霧信号所が、3月末で廃止されたというニュースを、先日の朝日新聞「天声人語」欄で知りました。
霧笛は、灯台と並ぶ 海の安全案内人でした。
同時に、海を心に刻む 象徴でした。
その役目を終えて消えるのですから 致し方ないのですが、さびしい思いです。

街中に住んでいると、久しく遠い音を聞いていません。
子供のころ、夜中に目が覚めると、山陰線を走る機関車の汽笛が、物悲しく聞こえたものです。
いまは、寝静まって耳を澄ましても、遠い汽笛はもう  聞くことはできません。
いろんな遠い音をなくしましたが、遠い汽笛は、失くした大切な音のひとつです。

機音(はたおと)も、過去のいとおしい音になってしまいました。
あの音には、幼い記憶が詰まっています。

霧笛は、旅の宿で聞いた経験しか持ちませんが、海辺に暮らす人たちにとっては、ぼくが汽笛や機音に持つ感情以上に、身近な いとおしい音だったに違いありません。

むせび泣くという言葉がぴったりの、霧笛。
また ひとつ、遠い いとおしい音が消えました。