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設計屋の魂

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宮大工棟梁 西岡常一 はその著書 『木のいのち木のこころ』 の中で、“道具は大工の魂” だと書いている。
道具を見れば、その職人の腕が判るという。

では、
設計屋の魂は 何であろうか。

私はそれは バランス感覚だと思う。 言い方を替えれば 重心意識と言ってもいい。
例えば、シンメトリな物体は 直立不動の人間のように、面白みが無い。
そこで、右足を “休め” させてみる。すると、バランスを保つために 左半身は少し沈む。
これが自然な姿である。

設計は、左右対称がいちばん楽だが、要求される現実の設計は 動きや力があるから 必ず重心移動が生じている。
これに気づかないと、直立不動の姿勢で “休め” をしているようなもので、不自然極まりない設計になってしまう。

この重心移動の感覚は、そう簡単に備わるものではない。
どの位置に どれだけの大きさの力が どの方向に どれだけの加速度で働いているのか、白紙の上に線を描く その時々に、これを一瞬のうちに ひらめかせないと、 “うまい” 設計はできない。

勘と言ってしまえばそれまでだが、苦い目にあった失敗に裏打ちされた長年の経験としか言いようがない。
ただ、漠然と過ごした時間ではない。
いいものを設計したい、スマートなものを設計したい、できるだけ部品点数を少なくした設計をしたい、売れる設計をしたい・・・動機はなんであれ、目的意識を持って懸命に打ち込んだ時間の長さであろう。

一本の線を引くにしても、常に重心を意識するのである。右肩上りなのか、太線なのか、その先にどんな線が立ちはだかっているのか・・・。
どれひとつ取ってみても、同じ重心位置ではないはずである。

重心がどこにあるのかが判れば、流れるようにバランスの取れた うまい設計ができる。
バランスの取れた設計は 美しい。美しい設計を いついかなる場合も目指したい。
設計屋の魂が そう要求するのである。
美しい設計が つまるところ 人にやさしい設計であると確信する。

日々、研鑚を積んでいくしかない。