再び、2010年安保。 |
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6月5日付けの朝日新聞朝刊の投書欄に、次のような一文が載っていました。
「鳩山さんに感謝の拍手送る」 木村 友美(15歳高校生)
首相を辞めることになった鳩山由紀夫さんだけれど、私個人としては、ここまで頑張った鳩山さんは
すごいと思う。
単純すぎるかもしれないが、国家のトップとしての苦労は並大抵ではないだろう。
普天間基地移設問題でも、政府と国民、アメリカと日本との間を取り持つのは重荷だ。
そう考えると、苦心の末に出された政策のあら探しばかりして 「ありがとう」を言わない国民は、
一生懸命働く母親に文句ばかり言う子どものように見えた。
ダメ出しは遠慮なくぶつけておいて、ああして欲しい、こうして欲しいとわがままを言いっぱなしに
するのは、無責任がすぎる。
完璧な政策なんてあるわけない。
政治を理解する努力もしていない私が言うのは差し出がましいが、日本をまとめるために踏ん張って
下さった鳩山さんに、テレビの画面越しではあるが、感謝の念を込めて拍手を送りたい。
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この投稿文には、15歳の若者のたわいない発言と 片付けてしまうことのできない、大切な啓示がこめられているように思うのです。
沖縄・普天間飛行場の移設問題がこじれ、それが引き金となって退陣した鳩山内閣の跡を継いだ管直人首相は、ギリシャの財政破綻やサッカーワールドカップに国民の関心が移ったと見るや、普天間問題はきれいさっぱり忘れたかのごとく、消費税10%論を唐突に出してきました。
参議院選挙の争点を、普天間や 金と政治の問題から、消費税増税問題に移した狙いは、あまりにも露骨です。
それをわかっていながら、マスコミと、それに隷従するかのように、国民の目は、理想と現実の狭間で にっちもさっちも立ち行かない問題から、財政という国の財布課題に乗り移りました。
なにか、変だと思います。
莫大な赤字国債は、大きな大きな問題です。
バブル崩壊のツケが いま、大きくのしかかってきているのです。
そのために、税金の無駄な使途を洗い直し、それを正し、そこから健全な財政へのとっかかりにしようと、国民は、歴史的な政権交代を選んだのではなかったのか。
そのとっかかりすら 見えていない状態で、どうして消費税増税を いま、持ち出さなければならないのか、私には 政治家のずるさとしか 理解できません。
鳩山由紀夫前首相に、ひとつの大きな不満があります。
彼が 政治家として、沖縄問題を真剣に取り組もうとしていたことが 理解できたから余計、その不満が強いのです。
それは、彼の頭の中が 在任8か月の間で、『普天間移設先は、最悪でも県外』から 『学べば学ぶほど抑止力は必要だとわかった』へ、どういうことを学んだから変化したのか、その過程を
つぶさに国民に開示してほしかった。
その変化のワケが国民に、とりわけ 冒頭に紹介した15歳の勇気ある投稿者のような優しい日本人に、納得のいくものであるとするなら、私があえて2010年安保と訴えようとしていることに対して、ほとんど解決された答えを示せるのかも知れないからです。
戦後は終わっていません。
日本は、いまだアメリカから独立していません。
慶応大学教授の小熊英二さんは、「戦争体験世代が社会から実質的に退場し、軍事が戦争と平和の問題ではなく、政策として語られるようになった」とおっしゃっています。
日本に戦争体験世代がいるあいだに、日米関係をしっかり見直さなければならない、いまが その最後のチャンスだ、と、強く思います。
60年安保のときのような、「対米従属の解消と非武装中立なのか、それとも再軍備と改憲によってアメリカに対等のパートナーとして認知してもらうのか」といった、水と油の議論は不毛です。
反戦を国是とした上で、いまの世に最もふさわしい日本という国のありようを、国民全体の関心のうちに決めていかなければなりません。
具体的には、日米安保条約を今後どうしていくのか、です。
普天間問題は、他の話題で もみ消しにできるほど、甘くはありません。
なってしまった莫大な赤字国債の解消は、国家としての指針が定まったあとで、じっくり解決の道を探るべきです。
日本が、国民の総意として こうあるべきと定まったなら、アメリカも、普天間問題をいままでのようには 放ってはおけないでしょう。
私は、アメリカが嫌いではありません。
アメリカが日本に施してきた数々の好意を、決して忘れません。
しかし、戦争を、民主主義を広めるために いたしかたない必要悪だとするアメリカには、抵抗します。
それは、戦争放棄を国是とする日本とは 相容れないからです。
鳩山由紀夫氏が 「抑止力は必要」という考えに至った理由が、彼自身の反戦との相克を乗り越えた末であるならば、それを聞かせて欲しかった。
鳩山さんがタフでなかったとは言いませんが、ドロドロした駆け引きに長けていたとは言い難いでしょう。
ただ、最近のこの国のトップで、鳩山さんのような優しい首相を、僕は知りません。
タフと鈍感とは違うし、優しさが優柔不断の裏返しでは困る。
その通りです。
その通りですが、歯切れの良さと有言実行も、まやかしと独裁の裏返しであるのも事実です。
タフでなければ生きてゆけない。
でも、優しくなければ生きている資格がない。
鳩山由紀夫氏に 「ありがとう」を言えた 15歳の木村友美さんに、この言葉を、エールとして送りたいです。
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