YAMADA IRONWORK'S 本文へジャンプ
祇園祭

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5歳の孫息子を右肩に載せて、御池新町の人の群の中に立っています。
家内は、孫息子が落ちるかと心配で、彼の背に そっと手を添えています。
下の孫娘は 母親に抱かれて、後ろのほうから わたしの肩の上のお兄ちゃんを見ています。

菊水鉾が いま、そのまま新町通りを越してしまいそうな位置まで進んで、止まりました。

孫息子が 頭の上から、鳥獣戯画を描いた扇子で、風を送ってくれます。
焼け石に水のような風ですが、彼の優しい気持ちは、首筋を這って流れる汗といっしょに、伝わってきます。

いま お囃子の音色が、変わりました。
これから、辻回しが始まります。
引き手からも、そしてちょっと遅れて観客からも、うぉーっという声があがります。
30度ほど南に向きを変えただけですが、周りから自然と拍手が起こりました。


菊水鉾の辻回しの間に、伯牙山 山伏山 郭巨山と、先に新町通りへ流れていきます。
東山を背景に 鶏鉾が、すぐ後ろから近づいてきます。





「お囃子のひと、暑いやろなぁ」と、頭のうえで孫の声。
囃し手も 引き手も 付き人も、観客も 警備の警官も、アスファルトの御池通りも、
鉾と ひとつ釜のなかのよう。

孫たちは これからも、幾度となく祇園囃子をきくことでしょう。
いま見ている鉾の辻回しや にぎやかなお囃子の音を、ずっとのちになって思いだすかもしれません。
誰の背に載っていたのか、誰に抱かれていたのか、それはたぶん、忘れるでしょう。


4回目の方向転換で やっと 鉾は、新町通りに向きを変えました。





菊水鉾が新町通りに姿を消すのを見届けて、
わたしたちは人の群と太陽の光から逃れるように、地下道に向かいました。