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ダンスのように抱き寄せたい

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映画「RAILWAYS」は、男の夢です。

当社の厨房用麺機機種に、「軽便二段麺機」というのがありました。
父が、大隈式二段麺機を軽便化したものです。
いま当社の厨房用主力機種になっている「ミディ麺機」は、父が工夫した「軽便二段麺機」を さらに改良・発展させたものです。

話が逸れましたが、「軽便」という言葉に関連して 脱線しました。

あのころの 多くの鉄道ファン少年が抱いたように、僕も「軽便鉄道」に憧れました。
脱線ついでに、日本における最初の軽便鉄道は、1880年開業の釜石鉱山鉄道です。
南海電鉄の前身である阪堺鉄道は、この釜石鉱山鉄道のお古です。
なお 軽便鉄道とは、軌間(レールとレールの間隔)が、例えば 762mm のように狭く、一般的な鉄道よりも規格が低くて、安価に建設された鉄道のことです。

映画「RAILWAYS」に登場する だいだい色した箱型の一畑電車「デハニ50形」は、一畑軽便鉄道から社名変更した直後の 一畑電気鉄道の象徴でした。
去年3月末の営業運転を最後に、引退してしまいました。
最後まで自動ドア化を拒み、手動ロック式ドアのままでした。
ちなみに、「デハニ50形」の「デ」は電動車のデ、「ハ」はイロハのハで三等車のこと、「ニ」は荷物車付の意味です。

さて、映画「RAILWAYS」は、鉄道ファンなら、筋書きそっちのけで映画代払っても、絶対損しません。
でも、それだけでは、もったいない。
中井貴一と奈良岡朋子の「息子と母親」が、一級品なんです。
ベタベタせず、いい距離感を保ちながら、お互いを思いやっている。
男なら、こんな関わりあいでいたいと思う 母親との関係です。

奈良岡朋子のキャリアが、にじみ出ています。
病室の窓から、息子が運転する一畑電車を眺める 母親の表情。
これを幸福と言うんだと、断言したくなります。

49歳の主人公・筒井肇役の中井貴一は、正真正銘の49歳で、これが えも言われぬ はまり役なんです。
彼の父、佐田啓二の渋い清潔感に輪をかけたような、それプラス、ウィットの効いた明るさで、あったかーぁくさせてくれるのです。
背広姿もきまってますが、運転手の制服が あんなに似合う俳優さんは、中井貴一をおいて他にないでしょう。

ひとり娘役の 本仮屋ユイカ、いい女優さんですね。
爽やかな風がつねに流れる この映画に、ひときわ清潔な爽やかさを添えています。

もうひとつの見どころ、夫婦関係。
一畑電車の運転手に転職した肇が運転する「デハニ50形」に、東京からやってきた妻(高島礼子)が初めて乗る。
みるからに郷愁漂う「いちばたぐち」の駅に降り立ったふたりは、どちらからともなく歩み寄って、ひとことふたこと。
出発ですよと 同僚に促されて、肇が妻に言い残す言葉。
「終点まで、ちゃんと乗ってくれよな」
このセリフを あんなに嫌みなく語れるのは、中井貴一だけでしょう。
妻も素直に、「はい」と答える。
あの場面は、忘れがたいシーンがいっぱいある この映画の中でも、ピカイチです。

東京でハーブショップを開いて 専業主婦を脱皮した妻・由紀子役の高島礼子は、僕にはちょっと苦手なタイプですが、見かけは冷ややかそうなんだけれど 根底にあたたかい思いやりをもった妻であり母である女性を、しっとりと演じています。
歳相応の年輪と美しさを感じさせる、ちゃんと自立した女性像です。

肇と由紀子の夫婦のような生き方は、正直 ぼくには理解し切れません。
一回り以上の年齢差が、理解をはばんでいるのでしょう。
でも、いいなぁ、とは思います。
この映画の「息子と母親」の関係と同様、ベタベタ感のない距離感、いいです。

エンディングに流れた 松任谷由実の「ダンスのように抱き寄せたい」を聞いて、この思いを強くしました。
ダンスのように抱き寄せたいのは、ダンスのようには もう踊れないからです。
中年夫婦の、落ち着いた仕合せが漂ってくるようです。

キザではなく、「ダンスのように抱き寄せたい」と素直に語れる夫婦って、いいですね。
ぼくには到底真似できそうもありませんが、けれん味のない一生を、ぼくも全うしたい。
この映画をみて、そう強く思いました。