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裂き織り

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急に秋が深くなりました。

手袋が欲しいなぁと、上着のチャックを首の上まで締めあげながら、紙屋川沿いに自転車を走らせていると、めずらしく 機の音が聞こえてきました。
無性に懐かしさがこみあげてきました。


京都・紙屋川沿いの小道は、小さかった頃のほろ苦い思い出で、詰まっています。

叱られて家を飛び出し、遠くに行く勇気もなく、紙屋川沿いを彷徨い、機を織る音に胸をきゅーっと締め付けられて、それでもなお意地を張って北野天神を目指し、だんだん心細くなって、天神さんの北門でUターンしたころには、家々の明かりがぽつぽつと灯りだし、紙屋川沿いのおうちの台所から夕餉の匂いが漂って、ましてや まだ聞こえてくる機の音に、もう意地も糞もなくなって、急ぎ足で舞い戻る。
このパターンの繰り返しでした。

ぼくは、西陣に関係した家で育ったわけでもなく、機を織った経験もないのですが、機織りの醸す雰囲気に惹かれます。
カターンカターンという機の音は、ぼくの聴覚の原風景のような気がします。
一度 自分で機を織ってみたい、そう思ってきました。


先日、こんなんええと思わへんかと、ある雑誌に載っていた記事を、家内が教えてくれました。
「糸一本まで捨てたくない」 と題した、裂き織りの記事でした。
ネットで調べてみて、裂き織りの魅力にとりつかれた人が 大勢いることに、まず びっくりでした。
ぼくも自分で織ってみたい。

ありがたいことに、京都には この種の手工芸の伝統があります。
体験教室を探すのは、さほど難しくありませんでした。
ぼくたちに裂き織りの初体験を提供してくれたのは、仏光寺通り富小路西入ルの 『彼方此方屋』さんでした。
親切な教え方と 熱心な(?)教わり方の成果に、大満足しています。
初めてにしては 上出来と、勝手に悦に入っています。

捨ててしまうのはもったいない古布を、とことん再利用できる。
まず、布を裂く快感がたまらない。
単純作業ながら、ちょっとした寄せ木の強さ加減や 横糸のはぎれの配合ぐあいで、微妙に風合いが変わってくる。
自分の美的センスが 意外性を伴って、作品に試される。
出来上った作品は、風呂場のマットや花瓶敷きに 有効に実用出来る。
ぼくの性にぴったりです。

聴覚の原風景である あのカターンカターンという音とは程遠いですが、織っていると 遠い昔に還ったみたいな気分になれます。
夜長の秋に、似合います。
裂き織りに、はまり込みそうです。



 
            ぼくの初作品                        家内の初作品