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高橋まゆみ人形館

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高橋まゆみさんの人形に出会いたくて、奥信濃・飯山へ出かけました。

今年の春、高橋まゆみさんの嫁ぎ地・長野県飯山市に、彼女の作品を常設する 市営の人形館が完成しました。
いちど訪ねてみたい、と思っていました。
全国各地で展示会が催されていたようですが、見る機会がなかったのです。

朝9時開館に合わせて 到着すると、すでに かなりの拝観者で混雑していました。
館を出る頃には、入館待ちの列ができていたほどです。
彼女の人形に惹かれる人が こんなに多くいることに、なにかうれしい気持ちでした。


山口県萩市在住の元教師・陽(みなみ)信孝氏の著書 『八重子のハミング』に載せられた短歌に感動して、高橋まゆみさんは、愛さずにはいられない老夫婦の 「こころの叫び」を、何点もの人形の姿に 表現されています。
陽信孝氏は、自身もいくつもの癌と闘いながら、アルツハイマーに侵された奥様との葛藤の日々を、『八重子のハミング』に綴られました。

人形の<雪の中>という作品の前で、わたしは目頭が熱くなりました。
雪の中、おじいさんの帰りを待つ痴呆のおばあさんの後ろから、ぎゅーっと抱きしめるおじいさん。


   幾たびも われの帰りを 立たずみて 待つ妻の背に 雪は積もれり (短歌 陽信孝作)


年をとるということは、悲しいことです。
でも 年を重ねて 初めて、どうしようもない愛、人間の美しさが理解できるように思います。
高橋まゆみさんの言葉をお借りして言うなら、その愛は、傷つけ愛、なぐさめ愛、許し愛、ぶつかり愛、助け愛、みとめ愛・・・

彼女の人形には、限りない人間賛歌が埋め込まれています。
彼女のファンは、その賛歌を聞きたいばかりに、この人形館にやってくるのでしょう。
わたしも、そのひとりです。


奥信濃は いま、かすかに冬の気配が漂っていました。