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遅れて届いたクリスマスプレゼント

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ひと月遅れのクリスマスプレゼントが、届きました。
小さな絵本で、その名は 『世界で一番の贈りもの』。

古道具屋でみつけたロールトップデスク。
その秘密の引き出しから出てきた、一通の手紙。
この物語は、その手紙から紡がれてゆきます。


「私とともに埋葬のこと」 とメモされたブリキ缶から出てきた手紙の書き出しには、「いとしいコニーへ」 とありました。
それは、第一次世界大戦のイギリス軍とドイツ軍が対峙する戦場から送られてきた、“コニー” のいとしい人からの最後の手紙でした。

「私は今、とても幸せな気分で、この手紙を書いている。すばらしいことが起きたんだ。それを早くきみに知らせたくて、たまらない。」
こういう書き出しではじまる その手紙には、1914年のクリスマス、対峙する両軍のあいだの無人地帯で起きた、信じられない光景が記されていました。

グレーの外套たち(ドイツ軍兵士)と カーキ色の外套たち(イギリス軍兵士)が、無人地帯でクリスマスを祝いあったのです。
つかのまの平和を、作りだしたのです。
握手を交わし、持ち寄った酒やパンを分かち合い、クリスマスキャロルを競演し、名前や出身地や職業や趣味を紹介しあって…。

圧巻なのは、両軍でサッカー試合をする場面です。
つかのまの会話で親しくなったドイツ軍将校は、こう言います。
「この戦争を終わらせる方法が解ったよ。サッカーの試合で、勝負を決めればいい。サッカーなら、だれも死なずにすむ。親を失う子もいない。夫を失う妻もいない。」

手紙は、次のような言葉で終わっていました。
「いとしいコニーへ。来年のクリスマスには、この戦争も、ただの遠い思い出話になっていることだろう。今日のできごとで、どちらの軍の兵士も、どんなに平和を願っていることがよく解った。きみのもとに帰る日が、もうすぐくる。私は、そう信じている。愛をこめて、ジムより」


『世界で一番の贈り物』(マイケル・モーパーゴ作、マイケル・フォアマン画、佐藤見果夢訳、評論社刊)は、ほんとうにあった話だそうです。
ぼくは、この絵本の存在を、落合恵子氏の 去年のクリスマスの日の新聞エッセイで知りました。
彼女のセンスのいいエッセイで 無性に読みたくなって 取り寄せていたのが、いま 届いたのです。


半分以上冗談ですが、ぼくも伊達直人の名で 日本全国のこどもたちに、この小さな絵本をプレゼントしようかしらん。
落合恵子氏がエッセイの最後に語られているように、戦争をするのが人間なら、「しない選択」ができるのも、わたしたちである、と信じて。