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エデンの園

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すべてを預け切ったとき ああいう愛しい眼差しの顔になる女性が 絵のなかにでもいた、ということが、ものすごい大きな発見のように思えて、なんだか うれしくなりました。
その絵というのは、リヴィエール作の 『エデンの園』。
ロンドンのギルドホール・アート・ギャラリーが所蔵する、雨上がりの公園を歩く若い男女の絵です。

と 言っても、かの地で 実物の絵をみたわけでは もちろんありません。
徳島県鳴門にある大塚国際美術館に展示された陶板複製画で、彼女を知ったのです。


宝くじどころか、町内の地蔵盆景品くじ引きでも いつもはずれ籤を引いている家内が、フルハップの招待抽選申し込みに当りました。
大塚国際美術館の入場券2枚です。
ささやかな当選かも知れませんが、こういうものに運がまったくなかったから余計、大喜び。
大きな儲けでもした気分で、さっそく日帰り鳴門旅行となりました。


大塚国際美術館のうわさは かねがね聞いていましたが、立派なものですね。
陶板美術の良さは、壁画などの建築がらみにある、と知りました。
ただ 額の絵は、陶板画ではどうしても 絵具の凹凸による味わいをだすことはできません。
それにしても、複製画の大きさ、その精緻さ、数の多さには 圧倒されました。


広い館内を歩きまわって だいぶ疲れが出だしたころ、あの 『エデンの園』に出会ったのです。

上目で恋人らしき男性を見つめる 幸せいっぱいの表情をした彼女は、ツバのないロシア帽風のキャップを 浅めに被り、暖かそうなコートにロングスカート。
自分の左手を握っている恋人の右手の上から、革手袋の右てのひらを そっと添えています。
少し前歯を見せてほほ笑む口元の、愛らしいこと。

山高帽をかぶった男性は、左手に、自分のと 多分彼女のとの傘を 二本持っています。
表情は、彼女側を向いていて よくわかりません。

公園の木々は 裸の枝を張り、霧で霞んだ向こうの道路には 馬車が止まっています。
地面は濡れて、薄日に翳る二人の影を映しています。





題名 『エデンの園』を、どういう意図で命名したのか、この絵の前にしばらく立ち止まっていて、ふと そんな疑問がおきました。

「一度は追放された2人が、罪をあがなって、エデンの園に帰ることを許された、現代のアダムとイヴ」

この解説には、どうも しっくりときません。
作者リヴィエールという人について 全く無知ですが、彼の理想の女性像という意味で エデンの園なのか、とも想像します。

まぁ、そんなことは どうでもいいこと。

ともあれ、なんだか変な気分ですが、絵のなかの彼女に、惚れてしまいました。
自慢の恋人を だれかれとなく紹介したくなるのと同じ気分で、紹介させていただきます。