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無事で申し訳ありません

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16年前の あのときも、そうだった。

神戸の山の手側では、被害の少なかった地域が かなりあった。
でも そのことがかえって、心に重くのしかかる傷となった。
うしろめたさ、という、はけ口のない傷。


6月14日付けの朝日新聞 「社会」欄に載った 小さな記事、『南三陸日記』。
その題名は、「無事で申し訳ありません」であった。

南三陸の駐在記者の取材に、Wさん(35歳女性)は、頭を下げて こう答えている。

「申し訳ありません。家も家族も無事なんです」


Wさん一家は、家が高台にあったため、津波の被害を免れた。
しかし、断水が続き、スーパーも雑貨店も流され、この町では生活できそうもない。

「何よりもね、町を歩いていると、周囲に 『あんたはいいちゃね、家も車も無事で』と言われている気がして、ときどき胸が張り裂けそうになるんです」

彼女は、先日 少年野球の練習にユニフォームを持って行こうとした息子を きつく叱ったことを、後悔している。

「ほかの子は着ないでしょ。もっと考えなさい」、そう言ったあと、涙が出そうになって、息子を抱きしめたのだという。

<ごめん、何も悪くないのにね>と、心で叫びながら…

取材の翌朝、Wさん一家は、隣町に引っ越して行った。
2トントラックを家財道具で満載にして、がれきだらけの町を 何度も振り返りながら…


想像するしか、ない。
その痛みは、想像してあげるしかない。

許されるなら、こう言ってあげたい。
「無事で申し訳ありません」、そのお気持ちだけで、十分です。

数字に現れる惨状だけが、報道写真に写る惨状だけが、災害ではない。
そのことを、そのことも、決して忘れてはならない。