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残心

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残心。
武道用語としてのこの言葉 「残心」を、なさけないことですが、ぼくは識りませんでした。
芸事でも 頻繁に使われるらしいのですが、太極拳教室で使ったことはありませんでした。
日本の武道や芸道に独特の用語なのか と、勝手に判断しています。

先週のNHKトーク番組<ディープピープル>、『時代劇をいろどる殺陣』でのことです。
大河ドラマの殺陣集団 「若駒」を率いる林邦史朗、長寿人気テレビ番組 「水戸黄門」の殺陣師を務める清家三彦、そして俳優の松方弘樹の鼎談で、フムフムとうなずけることを語っていました。

アイドルタレントが時代劇を演じると、たいていは 歩き方が侍になっていないとのこと。
重心が高くて 上半身が左右に揺れている。
侍らしい歩き方というのは、こちらへ向かってくるとき 正中線がまっすぐブレないこと、だというのです。
これは、太極拳教室で 耳にタコのことです。

トークが盛り上がってきたころ、残心の話になりました。
残心とは なかなか奥深いんやなぁ と、興味が湧きました。
でも このときは、残心というのは 見得や余韻みたいなものなのか、くらいに考えていました。

ところが ちょっと調べただけですが、これはすごい言葉だぞ と気づきました。
日本の武道における残心は、きわめて重要な所作なんですね。
だらしなくない、気を抜かない、卑怯でない…
古き良き日本人の、魂そのものです。

剣道で、一本とったあとの 心が途切れない所作。
ガッツポーズなんぞ、とんでもない。
弓道で、矢を放ったあと じっと的を見据える所作。
心身ともに美しい姿勢での、静のひととき。

芸道においても、特に茶道において 残心は、じっくり噛みしめるべき作法 と知りました。
武道での 反撃に備えた 「美しい所作」の継続 という意味合いを、余韻余情の 「芸気」にまで高めたものでしょう。

日本舞踊における残心に、強く興味を持ちました。
太極拳に通底する気づきを、感じたからです。
踊りのお師匠さんが、お弟子さんに こう言って指導しています。

「それじゃぁ 仕舞いができてないじゃないの」

手先足先まで神経をゆきわたらせて、区切りのお仕舞いまで踊りきることを、教えているのだと思います。
仕舞いという言葉も、味わい深い いい言葉ですね。


ふりかえって それでは、太極拳教室で 「残心」を どう生かせばいいのか。
いや 生かすもなにも、ぼくたちが演武している気功太極拳二十四式は、すべて 残心そのものだと思います。
あえて言うなら、二十四式それぞれの型の終わりが、残心でしょう。
身体的には一見静止しているように見える それぞれの型の終わりは、次の型へ移る前わざと心得て、気持ちは継続しているのです。

気功太極拳二十四式は、まさしく 美しい所作の継続 「残心」なのです。