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テレビドラマは脚本次第?

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テレビっ子の嘆きは、最近おもしろいドラマが少なくなったこと。
その歎きのテレビっ子が いま、しがみついているテレビドラマが、ふたつ あります。


そのひとつは、NHK総合火曜よる10時からの、向田邦子ドラマ 『胡桃の部屋』。

向田さんは、放映されたテレビドラマの脚本を、どんどん捨てちゃったそうです。
山田太一さんは、その逆。
山田さんが惚れこんで、向田さんに 「とっとかなきゃいけない」と嘆願したヒット作 『寺内貫太郎一家』の脚本も、向田さんは 「いいの、私は」と、取り合わなかったといいます。

この話を 文庫本 『眠る盃』の解説で読んでいたから、そう感じたのかもしれません。
『胡桃の部屋』の桃子が 向田邦子自身に重なって、ぐいぐいドラマにのめり込んでしまいます。


家出して 「死んだものと思ってくれ」と桃子に宣言した父、忠(蟹江敬三)が、母の綾乃(竹下景子)とラブホテルに入ろうとするところを、目撃する桃子。
家内と声を揃えて、「これは あかんわぁ」と、大ブーイング。

「桃子がかわいそうや」
「竹下景子が、せめて若いツバメとラブホテル入りなら、まだ許せるのにぃ…」
好き勝手な批評が、噴出です。

向田邦子の描く世界は、たしかに一昔前の、古めかしい匂いに満ちています。
ぼくたちより上の世代にしか、理解できない世界かも知れません。
でも きっと、彼女の ‘キリリとした色気’は、いまの世に置いても、燦然と輝くことでしょう。
なによりも 向田邦子の作品は、嘘っぽくないのがいい。

それは、どのセリフひとつも、その時々をいきいきと生きた彼女自身が感じ考えたことだから、だと思います。
だから どのセリフも、気持が古くならない。
時を超えて共有できるのです。


もうひとつのドラマは、フジ系木曜よる10時からの、『それでも、生きてゆく』。

ぼくがいま いちばん注目している若手の女優さん、満島ひかりが出演している、という理由もあります。
主役の瑛太はじめ、脇を固める俳優さんたちは、みんな超一流。
ことに、瑛太の母親役を演じる 大竹しのぶの迫力演技に、乾杯です。

脚本は、坂元裕二。
『東京ラブストーリー』以来のファンです。
去年放映された 『チェイス~国税査察官~』(NHK)で、久々に惚れなおしました。

このドラマ 『それでも、生きてゆく』は、扱っている題材がすごく重い。
殺人被害者の家族の気持ちに同化したり、加害者家族の気持ちに寄り添ってみたり、見てる方も苦しくて…
でも、苦しいだけじゃなく、ほわぁっと救われる気持ちになれる瞬間があります。
その心洗われる瞬間を見たくて、必死になってテレビにしがみついているのです。

坂本裕二の脚本のなせるわざでしょう。
演出も秀でているに違いありません。
そういえば、このドラマの演出家のひとり 宮本理江子さんは、山田太一さんのお嬢さんなんですね。
やはり、蛙の子は蛙なんやなぁ。


向田邦子、早坂暁、山田太一、倉本聰…
夢中になれたテレビドラマを、創り出してくれた脚本家たちに感謝。

そして、岡田惠和、北川悦吏子、井上由美子、坂元裕二…
これからも きっと、夢中になれるテレビドラマを、創りだしてくれる脚本家たち。
熱い声援を送ります、もっともっと夢中になれるテレビドラマを。