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てにをは

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山のあなたの空遠く
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。

噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。


上田敏の訳になる、カール・ブッセの詩です。
中学の国語の教科書で知った、と記憶します。
長いあいだ、忘れていました。


京都出身の英文学者、厨川白村のことを調べていて、京都帝国大学英文科教授であった白村の前任者、上田敏に行きつき、この詩を思い出しました。

名訳の詩だと思います。
ただ、ぼくがこの訳詩に思いをいたすのは、当時の中学の先生(たしか藤田先生だったと思う)から、助詞の使い方をこの詩で教わったことです。

出だし 「山のあなたの空遠く」の 「の」、結び 「山のあなたになほ遠く」の 「に」。
たった一文字で、思いがガラリと変わる。
助詞の意味深さを、教えてもらったのです。


気功太極拳教室に、中国のかたが習いにきてられます。
15年日本に住んでおられ、日本語がとてもお上手です。
日本語を習うとき、いちばん苦労したのは 助詞でした、とおっしゃってました。
助詞をちゃんと使えるようになって、日本語がうまくなったと言ってもらえるようになった、とのことです。

彼女のおっしゃる日本語の 「助詞」は、広い意味での 「てにをは」、つまり接続助詞や終助詞 さらに助動詞も含んでいるのでしょう。
日本語の特徴は 「てにをは」にある ということを、彼女と話していて 気づきました。

逆に、中国のかたは、どうやって 「てにをは」のニュアンスを伝えてられるのか、と不思議です。
こんどお会いしたとき、尋ねてみようと思っています。


もともと 「てにをは」は、漢文を訓読みするときの補助として用いられた `博士家点’のことだそうです。
平安時代、先進国であった中国の漢文を、いかに効率よく且つわかりやすく 日本語に読み解くか、大学寮の博士の職を与えられた 菅原家や清原家の学者たちの、努力のたまものだったのでしょう。

ひらがなやカタカナは、その源を空海の書に見出せるそうです。
文字を持たなかった日本人が、漢字からひらがな・カタカナを生み出し、漢字と 「てにをは」をうまく組み合わせて、日本人独自の表現方法を得たのです。


何か、日本語がいとおしく感じられます。
言葉、そしてその表現方法としての文字。
人間の生きる根幹をなす、そう確信します。
言語は、民族の尊厳です。

ある時期、日本は朝鮮半島に進出しました。
そして、最もしてはならないことを、朝鮮半島の人々に強要しました。
言葉を奪ってはならなかった。


外国のかたと日本語で会話をしていて 思うことですが、自分がもっとちゃんと 日本語をしゃべらないといけません。
ことに 「てにをは」を正確に言わなきゃ、そう半分恥じながら 思います。

外国のかたと日本語で会話をしていると、日本語の表現力の豊かさを 強く感じます。
そして、ますます日本語が好きになります。


もっと、日本語を大切にしなければ。