YAMADA IRONWORK'S 本文へジャンプ
キブネギク

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  幾山河 越えさり行かば 寂しさの はてなむ国ぞ 今日も旅ゆく

  白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ


これらは、多くの文学青年が憧れた “旅の詩人”、若山牧水の代表詩である。
御多分に洩れず、ぼくも牧水信奉者であった。
数ある大好きな牧水歌のなかのひとつに、『別離』に納められた 次の歌がある。


  吾木香 すすきかるかや 秋くさの さびしききわみ 君におくらむ


「日本の名随筆94草」の中に、『秋草と虫の声』という牧水のエッセイが入っている。
これは、牧水が好む秋草の花を、初秋から晩秋へ 咲く順を追って、虫の声への思いを添えて綴られた文章である。
たとえば 吾木香を、こんな風に紹介している。

  故あって髪をおろした貴人の若い僧形といったところ

秋草の花に親しめたのは、この随筆のおかげである。
花、ことに野に咲く花は、その名を覚えて初めて、ぐっと身近になるものだ。


ぼくは、キブネギクが咲きだすと、あぁすっかり秋だなぁと思う。





キブネギクは、義母が大好きな花だった。
義母から株分けしてもらったキブネギクが、ことしも咲いた。
ことしも、義母の遺影にキブネギクを供えた。


  キブネギク 切られてもなお 貴船菊


拙い自分の句を、お経のように唱えながら。