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機能美

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去年のクリスマスの日、インダストリアル・デザイナーの柳宗理さんが亡くなられた。
96歳だった。
私は、彼が標榜されていた 「アノニマス・デザイン」に、強く惹かれている。

アノニマス・デザインは、柳宗理さんの父上 柳宗悦氏が唱えた 「民藝」に通底するものであり、また 柳宗悦氏と民藝運動を共にした陶芸家・河井寛次郎の言葉 「有名は無名に勝てない」と、意を一にするものと思っている。


機械設計屋のはしくれである私は、つねづね 「機械は美しくなければならない」と考えている。

柳宗理さんが 「ほんとうの美は生まれるもので、つくり出すものではない」と述べられている通り、機械設計においても、機能をとことん追求し、不必要なものを慎重にそぎ落としてゆけば、おのずと 「機能美」が生まれる、との信念である。


蒸気機関車の美しさを考えればいい。
重い貨車をひっぱり、坂をのぼり、汽笛にいたるまで、動力源は蒸気圧ひとつである。

これを、私たち機械屋は 「メカタイ」と呼んでいる。
Mechanical Tie、つまり、機素をうまく組み合わせて ひとつの動力源から力を有効に伝達して 必要なあらゆる機能を果たす機械。
そこには おのずと、要らないものはない。
結果的に、美しい姿なのである。

人を驚かすような 奇抜なデザインは、しばしば 人の神経を苛立たせる。
ほんとうに有能な工業デザイナーの手に成る機械は、そのへんのところは 重々承知のうえの デザインであろう。
ところが 有名デザイナーと称される設計者の作品にも、くどくどしい これ見よがしのデザインが氾濫している。


アノニマスとは、無名のこと。
奇異なものでなく 匿名的で美しいデザイン、それを柳宗理さんは 「アノニマス・デザイン」と称されたのであろう。
ちゃんと用を果して なお、さりげなく 健康的な 平穏な美しさ。
「用即美」なのである。


道は遠いが、私も 機械の機能美を 「用即美」に求めて、アノニマス・デザインを目指したい。