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人材ということ

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鉱石ラジオというものに、夢中になった時期があった。
小学校高学年のころだったと思う。
ゲルマニウムラジオ、なにか世の中の最先端に寄り添っているようで、得意になっていた。

学校の最寄りの市電停留所の近くに、電気屋さんがあった。
この電気屋のおやじさんは、町の発明家と言われていたが、どんなものを発明したかは知らない。
鉱石ラジオの部品を買いに ときどき寄るので、このおやじさんと顔見知りになっていた。

そのおやじさんは、早川徳次の信奉者だった。
むろん その頃のわたしに、早川徳次が何者かなど、詳しく知るはずもなかった。
喉から手が出るほど欲しかった早川電機のラジオを作っている会社の社長さん。
そして、日本のエジソンといわれるほど、いろんな新商品を発明した人。
電気屋のおやじさんの話から、それくらいは理解できた。


シャープの創始者・早川徳次という人物を意識するようになるのは、いまの会社の社長になって間もない頃である。
経営セミナーみたいな会合での話だった。
社員を解雇することは、社長の不徳と心得よ。
早川徳次の言葉として紹介されたのだが、それまでのシャープという会社のありようから、なるほどと感じたものだ。

わたしが身につまされて感じたのは、実は次の言葉だった。
だからこそ、社員の採用には慎重にも慎重を重ねねばならない。
一旦採用したからには、その社員を一生面倒みる覚悟がなければならない。

当時のわたしには、その覚悟がなかったのである。


人材という言葉がある。
経営資産のひとつで、企業活動上での人的な 「材料」との解釈があるが、いまのわたしは、そうは思わない。

苦労に苦労を重ねた早川徳次が、苦労の末に見いだした結論は、会社は社員で成り立っている、ということであったはずだ。
だからこそ、社員を解雇することは 社長の不徳だという言葉が、自然に出てくるのであろう。

シャープの一ファンとして、現状のシャープを哀しく思う。
創業者の思いと大きく乖離した、「人材」を 「経営資産のひとつ」だとして大量解雇に至った いまのシャープを、残念に思う。
リーダーの経営ミスが招いた、大きな大きな過ちである。


会社というものは、そこに働く社員そのもの、いまのわたしは、そう思う。