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仙崎

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いま、行きたい場所があります。
山口県長門・仙崎。金子みすゞが生まれた土地です。

みすゞファンは多いと聞きます。その数は定かではありませんが、宮沢賢治に匹敵するのではないでしょうか。
ともにその根底に 『法華経』 が流れています。


金子みすゞが 宮沢賢治のようにそれを意識していたかどうかは、わかりません。
でも、加古川の鶴林寺住職 幹栄盛氏が指摘する通り、金子みすゞがうたう

みんなちがってみんないい
見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ

という言葉は、まぎれもなく法華経の中心哲学 「人間も獣も植物も、無生物も大地も水も空気も、この大宇宙のあらゆる存在それぞれが かけがえのない “いのち” をもっている」という 広い広い意味での平等主義に通じるものです。
そして、宮沢賢治の詩が “勇気” なら、金子みすゞの詩は “やさしさ” そのものです。


私が金子みすゞの詩に初めて触れたのは、15年ほど前 朝日新聞の天声人語欄を ちらっと覗き読みしたときでした。
ずっとあとになって 酒井大岳氏の著書 「金子みすゞの詩を生きる」 という本を読んだら、同氏も 同じ天声人語で、金子みすゞの存在をはじめてお知りになったことが記されていました。

酒井大岳氏は 群馬県長徳寺の住職で、この出会いをきっかけに 年間二百数十回もの辻説法で 金子みすゞの魅力を語って歩かれたとのことです。
この天声人語で 彼と私が出会った詩は、『大漁』という 短い童謡でした。

朝やけ小やけだ 大漁だ 大ばいわしの 大漁だ
はまは祭りの ようだけど 海のなかでは 何万の
いわしのとむらい するだろう


何べん読んでも 何べん声を出さずに唱えても 何べん声に出して歌っても、この詩は感動を与えてくれます。
たった数行の文で 自分の弱さをこんなにやさしく思いやってくれていることを ひしひしと感じさせてくれる詩を、私は他に知りません。


金子みすゞは、26歳の若さで死にました。自殺でした。
戦前の女性の多くが (いや、ついこの間まで日本の多くの女性がそうであったように)肉親のしがらみに泣き 愛情のない結婚に耐えて生きたように、金子みすゞの26年間も 決して幸せな生涯だったとはいえませんでした。

自殺する前の年、彼女は 女学校の同窓誌の卒業生通信に こんなことを寄せています。

なんとお答致しませう。唯子供が一人それが初めでそれが終りで御座います。あの頃日輪の高さまで翔った空想も今は翼を失ひました。残った者は一人のおろかしい「母」それだけでございます。・・・

でも、彼女の詩には、みじんも暗さは感じられません。
それどころか、やさしいことばで 読むものに夢見ることをいっぱい与えてくれるのです。

仙崎を訪ねれば、あのやさしさがどこから来るのか なにかわかるかもしれません。
仙崎に行ってみたい。