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虹をつかむ男

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いま 南座で、「山田洋次の軌跡~フィルムよ、さらば~」と題して、山田洋次監督作品を35ミリフィルムで日替わり上映しています。
寅次郎シリーズは別にしても、ほとんど見たと思っていた山田洋次監督作品の中に、あれぇこんな作品もあったんや と気づく題名がいくつかあります。
平日に見に行くのは 少々都合が悪いので、休日上映で まだ見ていなかった作品を 迷いながら選んだのが 『虹をつかむ男』でした。


ハリウッド映画で育ったようなもの、自分の少年期を振りかえって そんな思いを抱いています。
しかし、たしかに ハリウッド映画からは憧れをいっぱいもらいましたが、人生のかなしみというものを しみじみ感じ取ったのは、イタリア映画でした。

『自転車泥棒』(正確にはリバイバルで)、『道』、『鉄道員』…
そして 『ニューシネマパラダイス』。

あの 『ニューシネマパラダイス』の日本版ともいうべき、映画を愛するものにとっては 見にゃ損々なのが、『虹をつかむ男』。
しかも、深刻にならない程度に ほんわかと喜劇っぽく仕上がったのは、西田敏行の役者力のおかげでしょう。

徳島県・吉野川の山奥の地。
廃校直前の小学校の文化祭で 『禁じられた遊び』を上映するため、巡回映写機材と4人を乗せたワゴン車が、生徒リッセン君一人の小学校・中野小学校に到着します。
吉野川沿いのまち・光町にある古ぼけた映画館 ‘オデオン座’の経営者である活ちゃん(西田敏行)、映写技師の常さん(田中邦衛)、東京の柴又から家出してオデオン座でアルバイトしている亮くん(吉岡秀隆)、そして活ちゃんがひそかに思いを寄せる喫茶カサブランカ店主の八重子さん(田中裕子)の4人。

映画上映に先立ち、活ちゃんがあいさつをします。

   リッセン君、きょうは、世界でも指折りの名画を君ひとりだけのために上映します。
   これは、すごーいぜいたくなことです。
   きょう見る映画を、一生おぼえておいてくださいね。
   そして、この映画を君の心の財産にして美しい人生をおくってくれれば、おじさんはそれで満足です。


わたしは、まるで自分が リッセン君になったような気分で、『虹をつかむ男』をみ終えました。
希望とは、虹のようなもの。
その虹をつかむ男に、16年の年月ののちに会えました。
会えたおかげで、虹のような ほのかな希望が湧いてきました。
生きている喜び、うまく言い表せませんが、そんな喜びを感じました。
カチカチという、フィルム映写機の余韻を味わいながら…

山田洋次監督作品を35ミリフィルムで日替わり上映している南座の地元に住んでいるしあわせを、そして改めて 映画っていいなぁと、噛みしめています。