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小水力発電

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年末のあわただしさに、総選挙の喧騒が加わりました。
だれもが感じていることでしょうが、大切な一票だとはわかっていても、では誰に どの党に一票を入れるのか、選択肢の貧弱さに困ってしまいます。

何が信条なのか見当のつかない政党らに どう投票基準の焦点を絞るか、ほんとうにむずかしいですね。
ただ 原発をどうするのかという争点は、決して外せない投票基準です。
この国のエネルギーをどうするのか、食糧と同じくらい、大きな大きな問題のはず。

ただ脱原発だからとか 原発維持だからとかが、投票基準ではありません。
エネルギー供給システムの根幹を どう変えていくのか、それが問題なのです。

例えば、新エネルギー固定買取制度。
太陽光発電が、新エネルギーでもっとも注目され、法的にも強力な支援を得ています。
この法的支援に推されて、某大手携帯電話会社や従来の電力会社が大規模な太陽光発電所を建設しているのを、ニュースでしばしば見かけるようになりました。
せっかくの新エネルギー固定買収制度ですが、太陽光発電を大規模集中型でやる限り 原発がクリーンなイメージに変わっただけ、との印象は拭えません。

風力にしても小水力にしても、再生可能な新エネルギーは、本来 小規模地方分散型が適しています。
エネルギーの地方分散は、地方分権のとっかかりになり得る。
ただ そのためのシステムが整っていないのです。

これまでのエネルギー利用の常識、すなわち 「集中的に大量に発電し 広範囲に供給することが効率的」とする考え方を覆さなければ、新エネルギーによる発電の ほんとうの意義は失われます。

では どう覆したいのか。
うまく言い表せているか心配ですが、それはこういうことです。
電力の消費者が、どういう方法で どの地域で作られた電力なのかを、選択できるシステム。
例えば、地元の桂川用水で発電された電力を、たとえ原発で作られた電力より割高であっても、買おうという人たちがいるかもしれない。
そういう人たちがどんどん増えて、どんどん新エネルギーによる発電量が増えて、ついには原発は要らないということになるかもしれない。
このシステムが構築できたなら、それが可能になるのではないか。


3.11以後、原発について 自分なりに考えました。
何が自分にできるのか。
結局なにもできないまま、いや やろうとしないまま、あれこれ考えるだけで、ときが過ぎました。
退化する ‘絆’の叫びと、それに似たり寄ったりの自分に、むなしく怒っています。

放射能除染作業は、むなしい。
いっしょうけんめい除染作業をしている人たちが、気の毒でならない。
除染そのものが、矛盾だらけの行為だからです。

原発ゼロをめざすにしろ、一定の原発を維持するにしろ、放射性廃棄物をどう処理するのか。
この国のだれも どの専門家も どの政党も、放射性廃棄物の処理に、納得いく方法を示してくれてはいない。
ほんとうはだれにも、どうしていいか判らないのでしょう。

一個人でどうすることもできない問題に思い悩むのは もうやめよう、もっと身近で なんだか楽しそうなことで、ささやかでも ‘脱原発’の方向にむかうことに意を用いたい。
そんな思いのなかで膨らんできたのが、以前から関心を寄せていた 「小水力発電」です。


親しい友人に、木下哲夫というアイデアマンがいます。
彼は自由闊達な生活人であり、わたしなどのような専門バカ的狭い料簡では思いも寄らない発想が、ときどきですが、飛び出します。
浅いかもしれないが ものすごく広い、なによりも愉快な知識と経験から生まれる、と わたしは分析しています。

5年ほど前、こんな話をしてくれました。
彼は いま、西京区・桂に住んでいるのですが、あたりには きれいな水がとうとうと流れる農業用水路があって、いつも もったいないなぁと思っている、というのです。
この水路に小さな発電機をおけば、街灯くらいの電力は作れるのではないか。
このあたりは、夜になると暗くて水路に足を取られそうになるのだが、その安全策にもなるんやないか。
そんな提案でした。

嵐山渡月橋上の大堰によって導かれ 洛西の野を潤す桂川用水は、古く五世紀に渡来人・秦氏によって開削したのがはじまり、とのことです。
小さいころ、松尾大社境内を流れる桂川用水に、足をつけて遊んだ記憶があります。
当時は、ふつうの川と思っていました。
その桂川用水にも、他の多くの用水と同様、水争いの歴史が刻まれています。

水は、農家にとって死活です。
桂川用水のような河川を取水源とする水路では、水は上流と下流の利害の対立を引き起こします。
争いに争いを重ねてその結果、用水路を軸にしたひとつの共同体が生まれ、共同体と共同体の話し合いが繰り返されてきたのです。
水利権というものは、村々の間の重苦しい利害調整の結果生まれた慣行であり、決して軽々しいものではありません。

木下氏の話をきいたとき わたしは、いつもの引っこみ思案癖から、まずこの水利権のことを思いました。
ほんとうなら せめて、木下氏の家の近くを流れる用水路の水利権は 現在どういう土地改良区がもっているか くらいは、調べてみるべきだったのかもしれません。

ほかに急ぎの仕事を抱えていたせいもありますが、この話はそのときは雑談で終わってしまいました。
ただ このとき、木下氏の話に触発されて、用水路を利用した発電というものに 強く興味が湧きました。
「小水力発電」に結び付く きっかけをもらったのです。

興味本位で小水力発電のことを調べていたら、ネットでミツカン水の文化センター機関紙を知りました。
2008年2月発行の 『水の文化』第28号 <小水力の包蔵力>特集には、欲しかった知識が詰まっていました。
民間で こんなに判りやすくて楽しくて学術的な機関紙を発行している会社があることに、まず尊敬の念を抱いたものです。

少し長くなりますが、印象的だった文章のほんの一部を その特集から抜粋します。


…日本ではよく、「水と空気はタダ」と言われる。
実際には水はタダではないが、それだけ豊富だということを表現している言い回しだ。
その豊富な水からエネルギーを引き出して使うときに、ネックになるのは水利権の問題である。

全国に張り巡らされた灌漑用水路や身近な河川を利用しようにも、それぞれに管理者がいて、国から許可された水利権が設定されているため、許可されていない勝手な(目的外の)個人使用が許されていない状況なのだ。

…私たちの食の基礎を支える農業を守ることは、大切なことだ。
そのために許可水利権という形で、土地改良区が灌漑用水路の管理主体になっていることも理解できる。
しかし、農業へのかかわり方が変わってきた現在、農業用水路の維持・管理も、農家だけでやっていかれる時代ではない。

…柔軟で多目的な水路利用権を、米づくりだけでなく、観光目的や生態系の維持、住民の憩いなど、時と場合に応じて変わる目的にも認めるようにして、そこに 「小水力発電」も加えてみてはどうだろう。
そうすれば維持・管理という 「使いながら守るための仕事」も、農家だけでなく住民すべてに広げることが当たり前になるのではなかろうか。
そうすることで、農業からも水からも遠くなった住民を、近くに引き戻すことができるのではないか。
その結果、弱まっていた地域の力を強めることに通じれば、地域の活性化にも役立つはずだ。

…今回の特集は小水力を、「今の生活にあてはめよう」という折衷的なものではなく、「風土を活かす新たなエネルギー供給・取引に、新たな設計思想を持とうではないか」という主張である。
小水力の 「力」は、単に発電パワーを意味するのではなく、それらを効率的に活かすための社会に包蔵された 「力」を意味するのである。



『水の文化』第28号が発行されたとき すでに、小水力発電の法的環境は、環境への関心の高まりに呼応して整いつつありました。
この特集に先立つ2年前、つまり2006年に 「環境用水に係る水利使用許可について」という通達が、国交省より出されました。
水の消費が目的でなく、ある空間における水または水流の存在自体が、つまり、生活・自然環境の維持改善を目的とする水利権が、「環境用水」という表現で保証されるようになりました。
そして、環境用水の制度創設と並行して、小水力発電用水の許可手続きが緩和されたのです。

再生可能な自然エネルギー、いわゆる ‘新エネルギー’による発電への期待は、3.11以降 ますます高まりつつあります。
冒頭に触れた固定買取制度も、そのひとつです。
現行の大規模集中型の発電・供給システムは、この固定買取制度を食い物にする危険を孕んでいるのも事実です。

小水力発電(正確には水路式の1000kw以下の水力発電)は、‘新エネルギー’に分類されました。

小水力発電のいいところのひとつは、「見て楽しい」ということです。
わたしたちは小さいころから、水に親しんで育ってきました。
水が廻っている、うねっている、落ちていく…
きれいな水がサラサラ流れる光景は、日本人の原風景であり、心安らぐ光景です。

採算だけを考えれば、小水力発電は下の下かも知れません。
しかし、自然エネルギーを使って発電しているんだ、地域資源を使っているんだ、自分たちが発電を運営しているんだ、という意識は、採算性とは別物です。
地域からのエネルギー、きれいなエネルギー、ひいては自分たちの力でエネルギーを生み出しているんだ、といったイメージは、採算では割り切れない、もっと豊かな感情を人々の心に灯すことができるにちがいありません。


小水力に関するわたしの知識など、まだ微々たるものです。
是非一度、ミツカン水の文化センター機関紙を覗いてみてください。
第39号(2011年11月発行)は <小水力の底力>特集です。
きっと、小水力の魅力を理解してもらえると思います。