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ねんねこ

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もういくつ寝ると…
お正月が待ち遠しかった 遠い遠いむかし。
それが いつしか、
   分別の 底たたきけり 年の暮 (芭蕉)
となり、近ごろは 「年惜しむ」暮れになりつつあります。

流れるごとく、着実に過ぎ去る歳月。
年の暮れというのは、ふと これに心をとめて眺める ‘とき’。
だれが考えたのか、実に巧妙な ‘節’なのですね。

そんな暢気なこといってないで と、家内の声が聞こえます。
拭きにくい窓の外側を雑巾がけしながら、またまた 暢気な空想がよぎります。
ねんねこ。
年末のあわただしい時期になると、きまって思い出す、ねんねこ。

北野市場あたりだったか 定かではありませんが、かぞえで5歳のわたしは 母の背に負われていました。
うろちょろされるよりも 背に縛っておいたほうが都合が良かったのでしょうが、通りがかりのおっちゃんに 「大きな子がねんねこかいな」と茶化されて、恥ずかしかった。
恥ずかしさで顔を埋めたねんねこは、暖かかった。

年惜しむ暮れに思い出す、遠い遠い記憶です。

  ねんねこに 埋めたる頬に 櫛落つる (虚子)