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身につまされます

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68歳で亡くなったんやなぁ、身につまされるなぁ…
いや これは、映画館の出口で合流した同年輩らしき 見ず知らずの二人のご婦人の歩き話が、かってに聞こえてきたのです。
映画の題名は、『東京家族』。
なお、68歳で亡くなったのは、吉行和子が演じる母・平山とみこです。

映画ファンなら、小津安二郎監督の不朽の名画 『東京物語』をご覧になったことでしょう。
わたしは、少ない方だと思うのですが、三回みました。
山田洋次監督の この 『東京家族』は、あの 『東京物語』のリメイクということですが、観客である自分の立ち位置が、まったく違ったのです。

『東京物語』を最後にみたのは もう20年も前ですから、東京に暮らす子供たち(山村総、杉村春子、原節子)の位置から、父である周吉(笠智衆)母とみ(東山千栄子)を眺めていたのでしょう。
周吉やとみのところまでは、まだまだ先と、ある意味 客観的に眺めていられたのです。

『東京家族』では、すべての登場人物が自分のようでした。
長男の幸一(西村雅彦)の考えていそうなことも、長女の滋子(中島朋子)の感じていそうなことも、そして二男の昌次(妻夫木聡)の思いも、ジンジン伝わってきます。
でも とくに、父である平山周吉(橋爪功)は、自分そのもの。

周吉が 妻とみこの臨終の病院の屋上で 二男の昌次にポツリと話すことば、「かあさん、死んだぞ」。
ラストシーンの直前、島にひとり残された周吉が仏壇の前で 新聞紙を広げて足の爪を切る場面。
橋爪功のキャラでしょうか、尾道の高台の家でひとり団扇を使う笠智衆ほどには、沈んでいくような淋しさは免れています。

家族というものの煩わしさと愛しさの切ない ‘機微’を スクリーンに求めて、映画を愛する人々が 『東京物語』を60年近く見続けてきたように、『東京家族』は、現在ただいまの その ‘機微’を これからの50年も60年も、放ち伝えていくことでしょう。

冒頭で 「いや これは…」などと 体裁つけましたが、「身につまされます」というセリフは、自分の口からも出かけたものでした。