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幼子が泣いている

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女の子が、激しく泣いている。
5歳くらいだろうか、裸足でお母さんを追っている。
その前を かなり離れて、その子の母親らしき若い女性が 振り向きもせず歩いてゆく。

かわいいはずの幼子は、ときにわがままで、小悪魔のようにふるまうことがある。
母親が厳しく叱るのには、それなりの訳があるのだろう。
それは、よくわかる。

それでも わたしは、幼子の全身で泣く姿を見るのがつらい。
なんとか とりなしてやれないものか、そんな おせっかいな感情が吹き出してくる。

ある幼児教育家の言葉だが、ほんとうに恐いとき 幼子は泣かない。
泣いているあいだは、まだ救いがある、と。
それも、よくわかる。


わたしは、我が子に厳しかった。
とくに 男の子には、いまなら虐待通報されてもおかしくないくらい、つらくあたった。
なさけないことに ほんとうは、我が子を叱っている自分に、腹が立っていたのだ。

親は、わが子を叱るとき、冷静にはなれない。
冷静に我が子を叱ることのできるほど、親は そんなに偉くはない。
かっての自分を顧みて、臆面もなく そう思う。

そんな 割に合わない叱られ方をした我が子の心を救ったのは、母親であり、祖母だった。


泣き声が、だいぶ遠くになった。
でも まだ、全身で泣いているのが わかる。
あの裸足の女の子にも、やさしい父親か おばあちゃんがいてくれることを、ひそかに願う。
あの、振り向きもしない母親のためにも…