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絵のある人生

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「絵のある人生」。
これは、安野光雅さんの著書(岩波新書)の題名です。
表紙はヨレヨレ、中は赤鉛筆や黄色マーカーや汚い字の落書きやらで、まず 古本屋は10円でも引取らないでしょう。
もちろん、売る気などありません。
大切な大切な ‘新書’本です。

 絵を描くことは、描かないで過ごした人生にくらべて、どんなに充実しているか知れないのだから…。

同書巻末の 安野さんの言葉ですが、自分が絵を描いているわけではありません。
いや、ちょっとは描いています。
でも、人に見てもらうような代物ではありません。
もっぱら、「絵をみる人生」を楽しんでいます。


先日、佐川美術館で催された 「安野光雅展 記念対談」に行ってきました。
聞き役は、ノンフィクション作家の 澤地久枝さん。
安野さん、澤地さん共に親交の深かった故・佐藤忠良の ブロンズ作品に囲まれた会場は、安野ファンでいっぱいでした。
安野さんの まじかにみる人柄、澤地さんの 控え目でスマートな相づち。
それはそれは、(澤地さんの言葉をお借りすれば)浄福のひとときでした。

どうしたら 安野さんみたいに うまく絵がかけるの?
安野さんは 子供たちから、よくこういう質問をうけるそうです。
そこで 安野さんが引き合いに出すのが、「野口英世の母の手紙」だといいます。

度重なるうちに そらんじてしまいました、何べん読んでも 涙が出るんですよ、とおっしゃって、野口英世の母 シカさんの手紙を紹介されました。
年老いた母が、幼いころ習った字を一生懸命思い出しながら書いた、誤字混じりの手紙です。

安野さんは、子供たちに こう言います。
いろは48文字で、こんなに心動かされる文章が書けるんだ。
だから、君たちも、スケッチブックと12色の絵具と太筆細筆の2本があれば、誰でも絵は描ける。


絵本を作ってみたい。
上の孫が、こう言いました。
この夏休みの宿題にすれば。
家内が、そう提案しました。
わたしは、安野さんになり済まして、野口英世のお母さんの手紙の話をしました。
横から 家内が、その前に 野口英世の伝記を読ませてあげないと、と。

ほんとうは わたしが、いちど絵本を作ってみたい と、前々から思っていたのです。
わたしの場合は、夏休みという期限がありませんから、きっと孫の方が先に ‘絵本作家’になることでしょう。

絵のある人生、みるほう専門でもいいのですが、たまに へたくそな絵を描くのも、おもしろい人生かも…