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菜の花に招かれて

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京田辺・観音寺門前の、菜の花畑。
まるで、広大な黄色いじゅうたんを敷きつめたよう。

45年前 故友の鈴村繁樹君と訪れたときも、5年前に 家内と再訪したときも、こんな光景には、めぐり合えませんでした。
この菜の花畑は、15年ほど前から、地元住民のボランティアらが毎年秋に種を蒔いて育てている、とのこと。
45年前や 最近でも季節を違えば、見られなかった訳です。

実は、菜の花のじゅうたん見たさに かこつけて、もう一度 大御堂観音さまを、拝顔したかったのです。


竿の腹に 「大御堂」と大書された一対の石灯篭から始まる参道両側には、見ごろを過ぎたサクラ並木が、若い新芽を伸ばし始めています。
両脇の畑に広がる菜の花は、早い午前の陽の光に まっ黄色に輝いています。

この前 尋ねたときと同じように、大御堂手前のおうちのベルを押します。
ご高齢のあるじに用件を伝えると、それはわざわざ ようおいでなすった と、ゆったりした足取りで 大御堂へと導いてくださる。

等身大の天平仏・木心乾漆十一面観音立像は、真新しい厨子に入っておられました。
膝元すぐの四囲から見上げるように拝した 前回の記憶とは違って、このたびは真正面から仰ぐかっこうでの拝顔。

十一面観音さんで やっぱりこの観音さまが、いちばんや。
今回 あらためて、そう思いました。
ことばの表現力を超越した 美しさ、惚れ惚れします。

4月22日からの 『南山城の古寺巡礼展』に出展されるんですか、とお尋ねすると、老あるじは 「出しまへん。仏さんは、みすぼらしいても おみ堂で拝むのが、いちばんどすさかい」と。
まったく と、声に出さずに、わたしはうなずきました。
老あるじは、細い目をもっと細くして、にっこりなさいました。

脳裏に焼き付けておきたく、もう一度 観音さまのお顔を仰いで、大御堂を去りました。


菜の花に招かれて 果たせた、鈴村君も大好きだった 大御堂の観音さまとの、再会でありました。