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マロニエの花の咲く頃

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広島平和記念公園から元安橋を渡ってすぐのところ、いっぱいのオレンジの実で囲まれた しゃれたカフェにいる。
カフェポンテというお店。
おかしな言い方だが、幸いにも、ここからは原爆ドームは見えない。
すぐそばの元安川桟橋から いま、宮島行きの直行航路便が出るところだ。

風が強い。
5月の午前の、さわやかな風である。
こんもりと広やかな葉の茂る木に、ピンクの花房が 幾筋も青空に向かって伸びている。
あれ、なんちゅう花やろ?
マロニエかなぁ。
マロニエって、白い花やなかったかなぁ。
たわいない、家内との会話である。

広島には、仕事で何度か訪れている。
しかし、原爆ドームも 平和記念資料館も、初めてである。
沖縄へ遊びに行く ということに対する怯みとよく似た感情が、広島平和記念公園訪問に対しても 長い間あった。

さっき平和記念資料館で求めた小冊子 『あるいてみよう広島のまち』を、カフェポンテのパラソル席で読む。
この目で 原爆ドームを見て、この足で 爆心地を歩いて、そして 平和学習のしおり 『あるいてみよう広島のまち』をじっくり読んで、はっきりと気づいた。
平和であるということが どんなに幸せなことであるか、平和を口にすることが どんなに大切なことか。
平和を願う心を どんと気持ちの真ん中におけば、何を迷うことがあろう。

抑止力、それは平和を願う心に そぐうことか?
集団的自衛権、それは平和を願う心に そぐうことか?
ときの首相が 靖国神社を参拝すること、それは平和を願う心に そぐうことか?
平和を願う心に誓って、これだけは はっきり言える。
核兵器は、絶対悪である。

あの たわやかなピンクの花は、マロニエに違いない。
広島の、爆心地近くで、マロニエの花を見たことに、70年近く生かされてきたわたしは、原爆投下の年に生まれたわたしは、湧きあがるような幸福を感じる。
この幸福を、子にも、孫にも、ずっとずっと味わってもらいたい。
この日本に、この地球上に、あのような過ちが、絶対にあってはならない。

慰霊碑のまんなかの石棺に刻まれた この言葉を、絶対に絶対に、忘れてはならない。

   安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから


(マロニエの花の咲く頃 カフェポンテで思う)