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鋳物の美

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愛読ホームページ 「加藤わこ三度笠書簡」で情報を仕入れて、先日、期間限定の書店 「三条富小路書店」を覗いてみました。
富小路通り姉小路をすこし下った路地の奥にあるギャラリーh2oで、2週間だけ開いていた本屋さん。
本をとおして、自由なクリエイティブを発信するブックイベントです。

「三度笠」でめぼしをつけていた本、『趣味の製麺』を求めました。
こんなところでも、仕事魂がはたらきます。
『製麺』と聞いただけで、アンテナがピンと立つのは、いたしかたない習性です。

『趣味の製麺』は、鋳物の家庭用製麺機という 特化されたテーマのみで構成された、きわめてマニアックな同人誌です。
求めたのは第二号で、近々第三号を刊行予定とか・・・
アマチュア製麺家三名が執筆するこの雑誌、姿同様 内容もうすっぺらと思いきや、どうしてどうして、専門家も脱帽の記事また記事。
むかし懐かしの 「鋳物製卓上手回し麺機」をとおして ‘用の美’を究め、これを実用して製麺技術を磨く、という敬服すべき雑誌です。

実は、この雑誌を手に取ったとき、60年以上も前にタイムスリップしたのです。
当時の遊び場は、もっぱら 裏の畑でした。
正確には、畑 兼 鋳物の枯らし場でした。

山と積まれた鋳物には、いろんな不思議な形をした、大小さまざまな赤茶けた物体がありました。
ときには 刀に、ときには ライフル銃に、ままごとのお皿にもなりました。
奇妙な、それでいて とても愛嬌のある形のかずかずに囲まれて、気持ちいい遊び場だったことを覚えています。

その中に、家庭用製麺機の部品もありました。
もちろん当時、それらが家庭用製麺機の部品だとは、知るはずもありません。
でも その形状、がに股のスタンド、めがね的な切刃枠、ギザギザの円板つきスプーンに似たハンドル・・・
手ごろな大きさの、もってこいの遊び道具でした。

その家庭用製麺機を、趣味とはいえ、宝物のように集め 実際に使ってくれている人たちがいた、そのことだけで わたしは感激しています。
鋳物の美を理解してくれる、同じような美的感覚をもった人たちがいたんだ、それがうれしいのです。

60年も前に作っていた家庭用製麺機は、さすがにもう、手元にありません。
ただ、友人が郷里のいなかで使っていた手回し麺機を譲り受けたものが、一台残っています。
これは 田中式で、当社製ではありませんが、ほぼ同じ雰囲気のものでした。
取付台の木板は、展示に都合のよいように、先端を短く切断しています。





鋳物、砲金、むき出しの歯車、そして手回し。
どれも 忘れられたようなむかしの素材や機能ですが、機械が道具のちょっと先を進んでいた頃の、人間の手足のような親しみを覚える品です。

『趣味の製麺』 執筆陣の標本製麺さん、石井製麺さん、小太り製麺さん、これからもがんばってください。
第三号といわず、せめて第百号まで、刊行をお願いします。