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ノウゼンカズラ

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夏、高速道路を車で走っていると、無機質な防音壁のあいま合間に、夾竹桃のピンクや白の花が目に付く。
その気になって見やると、槿(むくげ)の白や紫の花も、防音壁に張り付くようにして、けっこう咲いている。
味気ない高速道路の風景に、少しばかり 心が和む点景である。

高い防音壁のてっぺんから垂れ下がるように、橙色のノウゼンカズラが、ちらチラッと目に入る。
あの橙色は、まさしく夏の色。


実は、ノウゼンカズラという花の名が、長い間 思い出せなかった。
『表参道高校』の校門を アーチ状に飾るように咲き乱れているのを テレビの映像でみて、その名が思い出せないのが歯がゆい。
ネットで 「夏の花 橙色 つる」などと検索するのだが、うまく探し出せなかった。

博学の親友、木下哲夫氏が 「それは、たぶん、ノウゼンカズラだろう」と教えてくれた。
ありがたかった。
名を知れば、芋づる的にドッと、情報とともに 花がこちらに近づいてくる。
名を知るということは、その対象が自分の一部になったように、親しみが増すものだ。


ところで、蔓(つる)のように高いものに絡まって繁殖する、という意味で カズラ(蔓)は判るのだが、ノウゼンとはどういう意味なのか。
名を知ったら、もうこっちのものだ。
いまは、ネットで何でも知ることができる。

古名は 「ノウセウ(陵苕)」または 「ノセウ」で、それが訛って 「ノウゼン」となった、とある。
漢名の凌霄花は 「霄(そら)を凌ぐ花」の意で、高いところに攀じ登ることによる命名だということも知った。
だから、ノウゼンカズラを漢字で書くと、凌霄(りょうしょう)。
他物に絡むため、漢詩では 愛の象徴だとも。

そういえば、正岡子規の句に
  家毎に 凌霄(りょうしょう)咲ける 温泉(いでゆ)かな
というのがある。


ノウゼンカズラ、この名を、もう死ぬまで忘れないであろう。