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太極拳経

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太極拳経というのがあります。
「経」と表現していますが、何々論の「論」に近い。

その存在は以前から聞いていましたが、なんだか理屈っぽそうで、敬遠していました。
このたび、楊進氏(楊名時師家のご長男)が著した 『太極拳経解釈---至虚への道』を熟読して、なぜもっと早く接しなかったのか との思いです。


唐突ですが、イチロー選手が 本塁突入に怒ったキャッチャーの突きに遭う場面が、忘れられません。
イチローは、大柄なキャッチャーの執拗な突きを、ひょいヒョイっと後にさがって躱すのです。

あのイチロー選手の動きは、まさに太極拳経で説かれている ‘「虚」の使い方を知る武術’そのものです。
「以弱勝強」 「後発先至」、この太極拳の基本理念は、わたしが太極拳に惹かれるわけであり、イチロー選手を敬愛するわけなのです。

太極拳経は、明確に相手の存在を肯定します。
自分が相手より劣勢であることを、前提としています。
まさに弱者救済の方法を説いているのです。

「弱きが強きを挫く」には どうすればいいのか、その根本は 「争わない」ことに尽きる、と説いている。

けっして一方的に争いを放棄することではない。
自分の闘争心を押えつけ、我慢して耐え忍ぶことでもない。

争わないためには、現在の関係を把握して冷静に対処すること。
力の衝突を避けて、円満な関係を築くこと。

そのために何が一番大切か、それは相手を推し量る 「心」だというのです。
相手の剛を想像する力、想像力。
相手を推し量り 自分を制御する 「心」を育てることが、太極拳の大きな目的だと。


太極拳経の最期のフレーズの冒頭に、「本是捨己従人」とあります。
この言葉に出会って、わたしは はっとしました。
そうか、と思いました。

太極拳は防御の武術、だといいます。
その本質は、「人を知る」ことに他ならない。
己を捨て 人に従うことから得るもの、それは 「相手に勝つ」ことなのです。

わたしが ひそかに感じていた 「太極拳は専守防衛」という感覚は、間違っていなかった。
相手に究極的に勝つ方法は、これしかないのです。