YAMADA IRONWORK'S 本文へジャンプ
あん

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映画 『あん』を、ご覧になりましたか?
去年公開の 河瀬直美監督作品で、樹木希林が主演している映画です。
わたしは、京都シネマで見逃して 諦めかけていたのですが、丹波橋の呉竹文化センターで再上映しているのを知り、念願が叶いました。

ひょっとしたら この映画、樹木希林さんの最後の映画になるかも、そう思うと、この映画への思い入れが ますます募ります。
(ちかぢかロードショーの 『海よりもまだ深く』という映画に出演するんですね、安心しました。)
元ハンセン病患者という重い役柄(徳江役)を演じるのが彼女でなければ、こんなに希望の予感漂う、「どら焼き いかがですかぁ-」というセリフの似合う映画にはならなかっただろう、観終わって最初の感想です。


西武新宿線沿いの 桜の花がいっぱいの通り、その一角にある どら焼き屋 「どら春」が舞台。
インタビューで希林さんが語っていたのが印象に残ります。
「言葉じゃうまく説明できないけれど、“ここ”って場所でしたね。それをどう撮るかもセンスだけど、場所を決めるのも、見つけるのもセンス。そういう意味では、美術やカメラワークも含め、河瀬さんの秀でたセンスというか、美意識が現れている映画ですよ」。

原作本作者のドリアン助川(明川哲也)は、この物語が生まれるきっかけを、こう話しています。
きっかけは、(ラジオの深夜放送のパーソナリティをやっていた頃)番組内で若いリスナーたちが好んで口にする言葉だった。
「社会の役に立つ人間になりたい。そうじゃないと、生まれてきた意味がない」
誰からも否定されないであろう立派な言葉だ。でも、だからこそ思うところがあった。
重い障碍があり、寝たきりの人。歩けるようになる前に亡くなってしまった乳児。社会の役に立つことが人の存在価値になるなら、そうした命には生まれてきた意味がなかったのだろうか?

「どら春」の店長・千太郎(永瀬正敏)が、徳江が暮らしてきた療養所を 女の子・ワカナちゃん(内田伽羅)と尋ねるシーンがあります。
徳江の身の上話を聴いた千太郎が背を丸めて嗚咽する、たぶん、千太郎の投影は原作者自身なのでしょう。

永瀬正敏が実にいい。
彼のイメージは、山田洋次監督の 『息子』で固定されていたのですが、すばらしい中年男優に育ちましたね。


ところで、題名の 「あん」って、アンコの意味だったんですね、「どら春」のどら焼きの 「あん」。
てっきり、女の子の名前かと思っていました。

食べてみたかったなぁ、徳江さんの作ったあんが包まれた 「どら春」のどら焼きを・・・
と書きかけて、ほんとにスーッと口に運べるだろうか、と疑う自分がいます。

この映画は、そうも問いかけてくる。
ほんわかとガツンとくる、そして 桜と月がいつまでも脳裏に残る、映画でした。