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アウンサンスーチー

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いま、ミャンマー(ビルマ)が 燃えています。

日本と関わりの深い国、同じ仏教の国 ビルマが、世界の ことに日本の誠実な理解と行動を求めています。



ビルマという国をはじめて意識したのは、竹山道雄の児童向け小説 『ビルマの竪琴』 を読んだときでした。
水島上等兵の言葉と生き方を通して、 「怠惰で遊び好きで投げやりではあるが、快活で謙譲で幸福」 な ビルマの人びとを想像し、ビルマの山野をゆくレンガ色の僧衣に安らぎを夢想したものです。

『ビルマの竪琴』、これほど心をうごかされた本はありません。

アウンサンスーチー女史は、1945年の生まれ、私と同い年です。

昭和60年ころには京都に住んでいたことがあります。
京都大学東南アジア研究センターの客員研究員でした。

もちろん何の面識もありませんが、1991年にノーベル平和賞を受賞したスーチーさんの顔写真を新聞で見て、たいへんうれしい気持ちだったのを はっきり覚えています。
上品で少し憂いのある端正な顔立ちに、誇り高い気慨を感じたものです。


軍政の将軍たちはなぜ、ひとりの女性をいつまでも自宅軟禁にしなければならないほど恐れるのか。

この問いに、スーチーさんのいとこで米国を拠点に民主化活動を続ける ビルマ連邦国民民主政府(NCGUB)主相のセインウイン氏は、こう答えています。

「スーチーさんが自分と家族の生活を犠牲にしてまでも ビルマの平和と民族和解のために働く姿を、多くの国民が 尊敬しているからだ」



彼女の思想と行動の原点について、伊野憲治・北九州市立大学教授は 次のように分析しています。
伊野教授は、彼女の行動を支える思想のバックボーンとして、彼女の父親で ビルマ独立の父とされるアウンサンと インドのマハトマ・ガンジー、そして仏教思想を挙げています。

[アウンサンからは、国家・国民のために誠実さと忍耐力、勇気をもって自らの使命を果たす大切さを 受け継ぎました。
またマハトマ・ガンジーによれば、世の中には真理はひとつしかなく、したがって政治と倫理は 分離できないとしています。
政治は真理の実践の場であり、そこで強調されるのは、目的と手段の合一だというのです。

アウンサンスーチーさんが あくまでも非暴力と不服従によって民主化の実現をめざすのは、本来の目標実現のために手段で妥協することを拒否するからです。

暴力に訴えて民主化を達成できたとしても、そのような民主化は また暴力による否定を正当化することにつながりかねません。

目的のためには手段を選ばなくてもよい という西欧近代の考えは、ビルマにおいては拒否されるべきものとしているのです。

仏教からの教えは、 「慈悲(ミッター)」 で、アウンサンスーチーがめざす政治とは、慈悲の実践であり、それが人権・民主主義なのだというのです。〕


以上から、伊野教授は
「アウンサンスーチーの基本姿勢はビルマの伝統のなかから独自の民主主義を発掘し、実践することだ」と、分析します。
そしてこの点こそが、軍政が一番恐れていることであり、彼らは 彼女を西欧の手先呼ばわりして憎悪するが、多くの国民からすれば ビルマの伝統・文化・価値を本当に体現しているのがどちら側かは自明なのだ、と。



2005年6月、アウンサンスーチーさんの60歳祈念キャンペーンに際して、ダライ・ラマ14世は彼女に書簡を送りました。

アウンサンスーチー様

・・・私が深くあなたを尊敬するのは、こうした不当な抑圧に直面しながら、非暴力的な手段に忠実であり、受動的な抵抗を用い、対話と妥協と交渉を通じた解決を求めようとする あなたの決意です。
・・・しかし決して希望を失っても、諦めてもいけません!私自身の、また多くの人々のあなたへの思いは、つねに、ビルマというひっそりとした大地で隔離されている あなたと共にあるのです。
私は確信を持って次のように言うことができます。
このような心からの支援の気持ちが、たとえ直接あなたのもとに届かないとしても、あなたは、ここにこめられた思いを通じて、力と恵みを受け取られるのです。
そして最終的には 真理と自由、正義が勝利するのです。




2003年5月、アウンサンスーチーさんが軍政府によって 三度目の拘束を受ける前夜、彼女は サガイン管区モンユワ市で市民を前にスピーチし、
「民主国家を早く実現しなければ 国民の生活は苦しくなるばかり」と 訴えました。
その話はわかりやすく、その声は力強さにあふれていた(日刊ベリタ)と伝えています。

・・・私たちの国民は基本的に理不尽なことは好きではありません。いじめることは嫌いなのです。
被害者に同情することは良いことです。
ですから、私たちのこういうような性質を基本として民主国家を形成しなければなりません。
真実は力 でも力は真実ではないという信念で、私たちの民主国家を形成することが必要であります。
私たちの民主国家を形成しようと言ったのは、私たちは法治国家になりたいからです。
正当性を存在させたいからです。
誰かが、だれかを不法でいじめるのを阻止すること、弱い者いじめをさせないことです。
こういう状況にするためには、私たち国民を保証できる制度が必要です。
制度はとても大事です。
私、ときどき聞かれたことがあります。
制度と人、どちらがもっとも大事ですか ということです。
私は思います。
両方とも大切です。
人がいかに良くても、制度が悪ければ、この悪い制度のなかに良い人たちが泥沼的に入るようになります。
泥沼から出られないようになりますよ。(拍手)
片方を見たら制度が良くても人が良くない。
人が良くないならば民主国家に発展させられない。
ですから、大切なことは制度を正しいものにすることです。
人が立派になるため頑張ることが必要なのです。



・・・私たちは、国民に権利をいっぱい与えてくれる制度を形成するために頑張っております。
ここで私が言いたいことは、国民が金持ちになっていく制度といっていません。
権利を全部くれる制度、その権利を正しく使用して勤勉で一生懸命頑張れば私たちの国は裕福になれるでしょう。
そうなれば国も平静になるでしょう。
国民の統一はとても大事であります。
私たちの国は連邦国家です。たくさんの少数民族たちで構成した連邦国家です。
だから、平和はとても大事なのです。
独立を得た後の時期から国内でさまざまな武力紛争がありました。
現在ならば停戦協定がありますが、停戦することは平和ではありません。
平和のために同意したことは まだありません。
平和のための同意には、私たちの連邦国内で平和を保証することを政治的に行うしかありません。
政治の場で少数民族のみんなが同意し、そして、それがみんなの利益になる連邦国家を形成すると決定してから、私たちの国は本当に平和になったと言えるでしょう。
そのように平和になれば国家も平和になります。
国民にも権利を存分に与えることができるのです。


・・・民主主義の発展は、時間がかかるほど国家に痛みが伴います。
経済が毎日悪化していることは 国民のみんなが知っています。
物価も高くなっていく。経済が低迷している。これはみんなが知っています。
こういう状況で国がもっと時間がかかったら国民はとても困ります。
私たちは、変換を早期に必要としており、経済か政治かとわけることはないのです。
この国の経済制度の悪いことは、政治制度が悪いからであります。(拍手)
経済人ということは、自分たちが法律上で自分たちの権利で安全に商売ができることです。
そういう制度のもとで、国家は経済的に発展できます。
だから、私たちは民主化を一日も早く欲しいのです。



・・・私たちの国民が民主主義を得たときに、自分たちの責任を理解してもらいたいのです。
民主主義ということは、権利があるだけでなく責任もあります。
民主主義を生かすためには いつも頑張らなければならないのです。


・・・私たちの国民の弱点の一つは、あることがはじまって終わったら整備しないことです。
例えば、道路である。
道路をつくって終わったら、道路を整備しないためにその道路に穴が一杯になっていく。(拍手)
それはみんなが使っている道路なので誰も気を使っていないかも知れない。
それじゃ、良くない。
私は何回も言いました。
みんなのものは、自分のものより大事にしなければならないと。
このように、みんなのものを自分のものより大事にする心があってこそ、発展している民主主義になるでしょう。


・・・ヨーロッパの国々では、いろいろな民族がいるが整備することは結構うまい。
何百年から何千年もかかって存在する建物でも彼らは良く整備して守ることができる。
それは彼らの習慣、風習、文化である。整備することが上手なのです。
私たちは、民主主義を得ることもまだ終わっていないけれど、民主主義を得れば、これを守らなければならない。


・・・民主主義の権利を間違えて使用することは禁物です。
権利を自由に正しく使う。
そして、民主主義が悪くならないように、私たちが守らなければならない。
これが心の力。
そして労働です。得た権利を、みんなが富み発展するために使わなければならない。
私たちがそのような心の力、労働で国を守って頑丈になっていったら、この制度は堅固なものになります。
この国の未来の人々のため、私たちの新しい世代がつづけて存続してくれれば、私たちは安心したと言えるでしょう。
人の力、強い意思を持っているモンユワ市民のために、民主主義を一日も早くもらえるようお祈りします。
(拍手)

(2003年5月29日:サガイン管区モンユワ市で)



アウンサンスーチーさんらの民主化運動が成功することは、これからの世界平和に大きな意味を持ちます。

なぜなら、9.11事件の報復が何の平和も安心ももたらしていないこと、では、あの悲痛な9.11事件を、 どうしたら世界の人びとの心に もがきながらも沈めることができるのか、弱い者いじめを嫌うが、あくまで暴力で得ようとはしない アウンサンスーチーさんらの民主化運動の成否が、その実際的な答えを与えてくれる 大きな成果となりうるからです。

憲法9条を持つ国である日本の、ミャンマーの窮地に対する役割は、他のどの国よりも大きいのです。
日本政府の誠意ある行動を願って止みません。


ビルマ国民から見れば幸せいっぱいな法治国家に住む私たちができること、ささやかですが 積もれば山となります。

どうか 「アウンサンスーチーとビルマのすべての良心の囚人の釈放のための署名」
http://wwwamnesty.org/actnow/myanmar/myanmar_jpn.htm (日本語のオンライン署名)に サインしてあげてください。

むしろ、私たちはスーチーさんから学ばねばならないことが いっぱいあるはずです。
アウンサンスーチー女史が、一日でも早く ご家族とともに平和なビルマを見ることができますよう、あの端正な顔が こぼれるばかりの笑顔として報道されることを、心から祈っています。