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台湾のいちにち

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「少しだけ普通でない精神状態で、それが旅ということだ。」
小説家・池澤夏樹は、著書 『インパラは転ばない』の中で、こう語っています。
この月の初め、朋友・神村道治氏が連れて行ってくれた “おっさん二人の台湾ぶらぶら歩き”は、まさに普通でない精神状態での、つまり昂揚感いっぱいの旅でした。

ことに 台南でのぶらぶら旅は、ただ街をうろつき、外から見えるものだけを見て、それだけなのに 何ヶ月か住んだことのあるような錯覚に落ちた、一日でした。
旅慣れた連れの計らいで、台南市のステキなホテルで連泊。
だから、朝早くから夜遅くまで 丸いちにち、神村氏オススメのスポットを、ゆったりと周ることができたのです。

台湾の三大偉人は、鄭成功と孫文と蒋介石だそうです。
台南の街のいたるところに、鄭成功を偲ぶ古蹟が残っています。

鄭成功については、この台湾の旅まで 全く無知でした。

近松門左衛門作 『国性爺合戦』の主人公のモデル と聞いて、台湾がぐっとこちら側に引き寄せられました。
清に滅ぼされた明の再興運動に奔走し 台湾に渡って鄭氏政権の祖となった鄭成功は、支那人を父とし日本人を母として九州平戸で生まれた混血児、というのも、とても親しみを覚えます。
当時 東インド会社を拠点に、東アジアにも進出してきたオランダ軍を討ち払った、というのも、カッコイイではありませんか。

ただし、台湾の人々の鄭成功に対する評価は複雑です。
清軍に追い詰められて台湾に渡ってきた鄭成功は、そこにいてもらっては都合の悪い少数のオランダ人を多勢の明人によって追い出しただけで、オランダ統治のままが より速く近代化につながったのでは、との見方があるそうです。

また、本省人(蒋介石の台湾統治以前より中国大陸各地やその他の地域から台湾に移り住んでいた人々の子孫)と外省人(日本統治が終わって以後 中華民国国籍を有したまま台湾に移ってきた中国人の子孫)との軋轢も、われわれのような旅人には 計り知れないものがありそうです。
さらに、本省人にも先住系(マレー・ポリネシア系)と漢族系があり、漢族系にも大きく福建省出身系と広東省出身系があるそうで、中国大陸との関係も絡んで、台湾の人々には大きな悩みがある、と知りました。

『国性爺合戦』は 文庫本にして70ページ足らずの作品ですが、古文調の文面は流し読みは つらい、が、じっくり読んでいると さすが近松と唸らせるものがあります。
一通り読みきったのですが、たった一日だけ訪れた 真っ青な空の台南市の土地の人々を懐かしみながら、もう一度じっくり読み直そうと思っています。

機会があれば また行きたいところ、台湾は そんな国です。
連れて行ってくれた神村氏に、感謝感謝です。