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気になる テレビドラマ、二つ

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訳あって、読売新聞を購読しています。
朝日新聞との違いが、おもしろい。
同じ出来事を表現するのにも、見方が変われば こうも書き方が異なるものかと、その違いを楽しんでいます。

朝日新聞の ‘天声人語’に相当する欄として、読売に ‘編集手帳’があります。
このところの ‘天声人語’に もの足りなさを感じていたせいもあるのですが、‘編集手帳’に はまって愛読しています。
‘編集手帳’の記者は きっと、かなりの読書家なのでしょう、引用が憎らしいほどピタッとくるのです。
引用された書物の好みが わたしと同じらしいことが、‘編集手帳’を気に入った理由かも知れません。


少し前になりますが、読売新聞8月3日朝刊の番組面 ‘試写室’に、NHKテレビドラマ 『透明なゆりかご』 が紹介されているのが 目を引きました。
海辺の街の小さな産婦人科を舞台に 命を扱うことの意味を 17歳の看護助手の姿を通して描くドラマ、その第3話が取り上げられていました。

‘試写室’に、こう あります。
「産婦人科医院で看護助手のアルバイトをしているアオイ(清原果那)は、いつも不機嫌な妊婦のさおり(田畑智子)に、ミスをするたびに罵倒される。あるとき、アオイは看護実習で市民病院に行くが、病室でさおりが悲しげに誰かに付き添っている姿を目撃する。・・・様々な出産の形を丁寧に描くために、手の握り方一つで心の距離を表現するなど、演出が秀逸。ときに重い内容を含むが、清原の透明感のある演技が一服の清涼剤になっている。陣痛と、行き場のない怒りによる心の痛みが同時に襲う場面での、さおりの叫びは涙なしには見られなかった。」

‘試写室’の記者の川床弥生さんは 「さおりの叫びは涙なしに見られなかった」 と書いていますが、さおりの行き場のない怒りを理解して さおりに懸命に寄り添う看護師見習いアオイのたたずまいにも、わたしは心を揺さぶられました。
川床さんの表現を借りて、主人公アオイ役の清原果那の “透明感あふれる演技”を、わたしは好ましく思います。

この ‘試写室’の記事に触発されて、第1話と第2話を録画で、第3話からはリアルタイムで、『透明なゆりかご』 を観ています。
男のわたしには根本のところで完全に理解することはできないテーマばかりですが、アオイの感受性豊かな目線から発する何気ないひとことに、命とは何かとの問いかけに、毎回ドキッとしています。

脇をかためる俳優さんたちにも恵まれたドラマです。
産婦人科院長役の瀬戸康史、ベテラン看護師長役の原田美枝子、先輩看護師役の水川あさみ、みんなわたしの好きな俳優さんたち。
それに、各話ゲストには、個性的な役者さんばかり。

「命には、望まれて生まれてくるものと 人知れず消えていくものがある、輝く命と透明な命・・・ わたしには、その重さはどちらも同じに思える」
主人公アオイの、心の声です。
透明な命のゆりかごになってあげたい、アオイは自然にそう思っているのでしょう。
‘透明なゆりかご’の深い意味が、このドラマを見ながら 少しずつ判ってくる気がします。


いまは 録画という強力な武器があるので、以前なら まず見る機会のなかった深夜放映のテレビドラマも、簡単に見られるようになりました。
おかげで、テレビっ子は大忙しです。

金曜日深夜のABCテレビで放映されているドラマ 『dele』 が、身じろぎすらできないくらい おもしろい。
このドラマを、朝日新聞8月23日朝刊 「きょうの番組から」 の ‘記者レビュー’で知りました。
この ‘記者レビュー’には、『dele』 の第3話が紹介されていて、作家の高橋源一郎が出演していると書いてありました。
どんなドラマなんや と、長期録画を再生したのが、はまる一歩でした。

フリープログラマー(山田孝之) とその相棒(菅田将暉) コンビが、写真などのデジタル遺品の消去を請け負う、毎回一話完結ドラマ。
そこに、フリープログラマーの姉の敏腕弁護士(麻生久美子) が絡んで、ストーリーをミステリアスな世界に引き込んでいきます。

第3話は、過激派学生の末路にかかわるストーリーです。
ですが、過激派学生そのものを描くのではなく、過激派学生の恋人(余貴美子) と 彼女を28年間も監視続けた公安協力者(高橋源一郎) を通して、むなしく長い時間の経過と そこに鏤められた細やかな希望を、紐解いていく展開です。
言葉で、このドラマのおもしろさを表現することは不可能です。
ドラマを観るしかない、だから第1話も第2話も、そして第4話以降も、録画で食い入るように観ています。

人は誰しも、消して(delete) しまいたい過去を持っています。
一昔前まで、死が、そういう過去を消去していました。
しかし、今はスマホやPCが、人に知られたくない過去をそっくり残して、死んだのちにも生きています。
そんなデジタル遺品を題材にしたこのドラマ、おもしろくない訳がない。

デジタル遺品を 『dele』 という小説にした本多孝好氏、それをドラマ化すべく本多孝好氏に脚本を依頼し 連続テレビドラマに仕上げた朝日プロデューサー山田兼司氏に、心から感謝をささげたい気持ちです。