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企業の内部告発

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雪印の食品偽装問題に始まった食品業界の不祥事は、後を絶たない。
うその表示をしてだますことが、食品業界では日常的におこなわれているのではないか。
そんな疑問が 半ば真実味を帯びてくる。
こういう報道風潮にさらされながら、まじめにこつこつと仕事を続けている 食品会社の経営者や従業員が 気の毒でならない。
仕事柄、その実情の一部を 垣間見て知っているからである。


茹麺業は、製造日をその日とするために 夜中の仕事となる。
製品の出来上がるタイミングが、午前0時を少しでも超えなければならないからである。
夜のない今の日本の都会では それなりの報酬が稼げる夜中の仕事は多いだろうが、茹麺業では その仕事に見合う報酬が割に合っていないのが実情だ。
それでも、茹麺業は 生鮮食品を世に提供する仕事である以上、安全・安心を 特に求められる生業であり、歯を食いしばって きつい薄利仕事を続けているのである。

だから余計に、このところの 一部の食品会社がしでかした不祥事に腹が立つ。と同時に、必要以上に日付を問題にする監督省庁 それに同調する消費者の雷同振りが、気になる。


それにつけても驚かされることは、一連の不祥事の多くが 内部告発で明るみになったことだ。
内部告発、なんて かなしい 情けない言葉だろう。

語弊があることを承知で言うならば、利益を追求するのが至上命令である企業なら、昔だって 多少の不正は多くの会社で行われていたのではなかろうか。
よほどの悪質な不正でない限り、明るみに出ることは少なかったに違いない。

なぜ、このところ 内部告発が増えたのだろう。
自分が勤める会社を愛し 誇りに思っている従業員が、その会社を内部告発するとは、私にはとうてい考えられない。

非正社員が増え、社内の情報が外部に洩れやすくなったことは 事実だろうが、これとても、いまの日本の企業が持つ 水臭さの現れである。
人材派遣業、こんな職種が 繁栄をみる世の中になった。
多くの大会社は、年功序列の雇用制度を実力主義に切り替え、人は駒のひとつであり リストラ対象の最大要因との ドライきわまる経営思考を、世に蔓延させた。
「企業は人なり」 などと聞こえのいいことを言っておきながら、人を歩駒ぐらいにしかみていない 大企業の冷たさ。

大企業に追随する中小企業も これに右へ倣えし、一部の零細企業すらも このようなドライな経営思考に染まってしまった。

公平な実力主義や適切なリストラが、悪いと言っているのではない。
従業員を ひとりの人間として見なくなった経営思考に、問題があると言っているのだ。


私は、自分の両親が会社を経営する姿を見て育った。
物心ついたときから、社員が家族の一員のような生活を送ってきた。

弁当屋さんみたいなものはなかったから、従業員の昼食のご飯は 母がお手伝いさんに手伝わせて、おくどさんに大きな釜を掛けて炊いていた。
湯沸し器のようなものはなかったから、仕事終りの従業員の手や体を洗う湯は、ご飯を炊いた釜の隣で 同じ大きさの釜を掛けて沸かしていた。
これも母の仕事だった。
住み込みの従業員も大勢いたから、彼らのふとんの世話は 母がめんどうを見ていた。
年頃の従業員のお嫁さん探しに奔走していた母を、懐かしく 思い出す。
だから 私は、雇い主が従業員の面倒を見るのは 当たり前と思っていた。


私が社長を勤めた30年間で、かなりの人数の従業員が入社し、退社していった。
人を雇うということの大変さを 両親の後姿で知っていたから、従業員を採用する際は 必要以上に慎重になっていたと思う。
だが、ひとたび雇用したからには、とことんめんどうを見る覚悟だけは持っていた。
定年で退職した社員、自己都合で去っていった社員、様々だが、会社の都合で罷免した社員は ひとりもいない。
経営者として落第点に近い私だったが、もし誇れることがあるとすれば、このことだと自負している。


振り返って 昨今の内部告発で揺れる不祥事問題の会社を見るに、詐欺まがいの不正を犯していた企業は、社員にも見放されて当然である。
しかし、農林水産省の「食品表示110番」に寄せられる内部告発情報の中には、日付けの印字間違えといった、どちらかといえば従業員のミスで生じたトラブルも含まれているという。
マスコミに大きく取り上げられることはなくても、その企業の社会的イメージは、大きく損なわれるに違いない。


安全や安心にかかわる不正はどうしても見逃せないと考える人たちが多くなっている今日、内部告発を防ぐために 従業員を大切にするという発想では、救われるものではない。
もちろんそうではなくて、せめて中小企業は、その従業員から愛され 誇りに思われるようでありたい。
そうであれば、不慮の些細な過失まで 内部告発する社員はいないと信じたい。

食品の偽装自体、大問題にちがいない。しかし、ほんとうの病巣は、内部告発の多発という 情けない現象にあるのではなかろうか。


企業の内部告発による 食品業界の相次ぐ不祥事事件のニュースに接するにつけ、思うことである。