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象の背中

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映画 「象の背中」 を観ました。余命半年と宣告された男の話です。
重いテーマなのに、さらっと見終えました。それが、この映画のミソでしょう。


このごろ ふと思うんです。不遜な言いようですが、人間60歳を過ぎれば、余命宣告されたほうがいいんじゃないかって。
そのほうが、生きやすいんじゃないか。
そう思う反面、それじゃ 面白くない。
死ぬってことは確実に判っていても、やっぱり いつ死ぬかが判らないから 面白いんじゃないか、と思い直したり・・・
ただ はっきり言えることは、今は二度と来ない と自覚できるようになったことです。

人間20歳を過ぎると、歳をとるにつれて脳細胞は 日々平均して4~5万個 死滅していくそうで、60歳を越すと、そのスピードがぐんと加速されるといいます。
「今は二度と来ない」 という自覚は、具体的に言えば、大げさですが、この壊れゆく脳細胞の瓦解音が 実感として聞こえるようになったということです。


映画 「象の背中」 の監督 井坂聡は、インタビューの中で こう述べています。

僕自身が撮影していて、一番グッときたのは、はるか(主人公の娘)が海辺でチアリーディングを踊るところですね。・・・そのとき役所広司さん(主人公)や 今井美樹さん(主人公の妻)の顔も、自然に涙ぐんでいるという感じで、すごくよかった。やっぱり子どもを思う気持ち、子どもに託す気持ちというのが、いろいろ思い起こされてきて・・・』


死を覚悟したとき、自分の残像を 何かに託したい、そういう思いが 込み上げてくるのかもしれません。
「倒木更新」 ということなのでしょう。
主人公は、最後に悟るのです。
象は、自らの死期を察知したとき、群から離れ、死に場所を探す旅に出る というが、自分には やっぱりできない。 当たり前に過ごしてきた日常の中で、家族に看取られて死にたい』 と。


余談ですが・・・。
今井美樹演ずる あんな奥さん、どこにもいませんよ、きっと。でき過ぎです。
ちょっと不自然だったなあー。
そして、井川遥みたいな賢い愛人、こんなのも たぶん いないと思う。
岸辺一徳、いい役者ですねぇ。主人公の兄貴役なんですが、ホスピスの海の見えるベンチで、兄弟並んで スイカをほおばるシーン。忘れられないです。
長男の重圧を 父の遺言の重みを一身に負って、勝手に家を飛び出した弟を それでも愛しくてかわいくて、死期が近い弟を前に 堪え切れなくなって嗚咽する兄。
泣かせる演技をしてくれます。


CHEMISTRYが歌うエンディングソングとともに、心に残る映画でした。