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同時代人

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喪中につき 今年の年賀状は、失礼させてもらいました。
いただく年賀状が少なくて当然なのですが、年明けのポストに 自分たち宛ての年賀状が ほとんどないというのも、 寂しいものですね。

そんななか、毎年 細かい字がびっしり詰まった年賀状をくれる松並壯君から、去年9月に発信した「日暮れて道遠し」の記事を引用した年賀状を もらいました。
予め 引用許可のメールを送ってきていたので、なにか 技術論文を書く足しにするのだろう と思っていたのですが、殊勝な文面に使っていてくれるのです。
「日暮れて道遠し」の心境を理解してくれていることが、とても うれしいのです。

前の会社の同期である松並君とは、長い間 会っていません。
思い出したようにかけてくれる電話で おおむね 彼の近況は判っているのですが、前の会社でも いっしょに仕事をしたことはありませんし、その後も とりわけ親しく付き合った仲でもないから、彼を ほとんど理解していません。
なのに、どこか 通じるものを感じます。
彼も、私が抱いているものに似た感情を 私に対して持っていてくれるのかも知れません。
おそらく それは、同時代人という 大海の底に沈んだ小さな針を見つけるに等しい確率でめぐり会う運命の なせる技に違いありません。

現生人類の祖先・ホモサピエンスがこの世に出現したのは 今から約3万年前のことであり、人類が住むこの地球の推定年齢 約46億年から比べれば、ごくごく短い年月です。
人間は たかだか100年の命、3万年から比べても 瞬きのごとき時、その瞬きのごとき時を共有する同時代人とは、 奇跡としか言いようがありません。
その 奇跡としか言いようのない60億人の同時代人のなかの同年齢、いま仮に 人類の平均寿命を60歳として、昭和20年に生まれた人間は 単純に考えて 1億人となり、日本人の同い年は そのまた60分の1の たかだか200万人。
いや、それでも200万人です。
この 宝くじ的偶然のなかで 努力もせずにめぐり会えた友とは、なんと有り難いものであることか。

太極拳二十四式に、『海底針(ハイディゼン)』という型があります。
『西遊記』のなかで、孫悟空が 自分にふさわしい武器として 海底にある海を鎮める針を拾って如意棒にした、という伝説にヒントを得て できた型といわれています。
全神経を 海の底に擬した一点に集中し、ゆっくりとゆっくりと屈んでいく という動作をします。
大海の底に沈んだ小さな針を見つけるに等しい確率の同時代人のなかから 自分と気の通じる友を見つけるということは、『海底針』の動きのように 本来きわめてきわめて真摯なものなのでしょう。

「日暮れて道遠し」の心境を共有しながら、思いを 遠い同時代人の友に馳せたいと思います。