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人間の関係

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めまぐるしく変化する世の中の動きに どう対処したらいいのか、その不安は、年齢を重ねるごとに衰える頭のめぐりや 頑なになっていく心の狭さを自覚するにつれ、深くなっていきます。

でも、年を取ることで 見えてくるものもあります。

世の中の変化についていけない不安の裏返しから生まれる感情かもしれませんが、変わる時代に変わらないものはなにか、そのことが この年齢に達して やっと判ってきたような気がします。

以前 この欄の 『うなずき上手』 で紹介した “古美術やかた” のホームページのブログ 『日々』 の中で 友人の舘義孝氏が、このことを まことに端的な表現で示してくれています。


御商売は、人と人
の間に物がある、
電気屋さん、魚屋さん、骨董屋さん、
それぞれ、品物除けば、
人と人、
心の交わり や 信頼 が 御商売 かも・・・



家電も魚も古い壺も、時代とともに商品としての 姿かたちは変わるけれども、人の心の交わりや 信頼の在りようは 変わらないということを、彼独特の言い回しで、表現したかったのでしょう。
本質を見抜いています。
苦労人の舘氏ならではの、心の底から湧き出たことばだと思います。

私の場合、きわめてわがままな苦悶であり、彼のような 本質から変わらぬものを見抜く力は ありませんでした。
やれ 工学だ やれ 経営だ、技術だ、開発だ、といったこれまでの生活のなかで、物に深く関わっているような振りをしていて 実は 物よりも人間に興味があっただけなのですが、人間が 一番の関心事でした。

ところが、人間が嫌いだった。
人間の不確かさ 気まぐれ加減 意地悪さ、なによりも まず、自分自身が嫌いでした。
移ろいやすいものの代表が、人間であり 自分だったのです。
人間の個々の性格や能力といったものに心を奪われて、人と人の関わりに 思いをめぐらす器量に 欠けていたのです。
鼻持ちならない若造だった私は、年齢を重ねるほどに、自分の限界を思い知らされます。
そして、人間と人間の関係が、生きる拠りどころになっていきます。
そこで初めて、舘氏が早くから御商売を通じて見抜いていた ほんとうに大切なもの、
変わらないものを、遅まきながら知ることになるのです。

人間の関係で 最も大切にしなければならないもののひとつが、夫婦の関係でしょう。
夫も妻も 年とともに変わります。
当たり前なことです。
だから、恋愛感情だけで 夫婦が成り立つはずがありません。
十年、三十年と時を経るうちには、意見の相違や感情のすれ違いがあって当然でしょう。
でも、ともに家庭を築き ともに子供を育て 社会人として努力する、 あるいは お店や事業を盛りたてるために ともにがんばる、そこから生まれる連帯感、戦友という言葉がふさわしい間柄が育っていきます。
思い出という 共通の財産をともに作りながら。

腑抜けの瓢箪みたいな状態だった 40歳台から50歳台前半の私を、家内は 実に辛抱強く支えてくれました。
あの頃 家内が私を気遣いながら励ましてくれた言葉のほんとうの意味が、この歳になって やっと判るようになりました。

楽しい思い出を いっぱい蓄えようよ。
その貯金が きっと 私たちの老後を 支えてくれるから。



五木寛之は、その著書 『人間の関係』のなかで、こう 言い切っています。

人間は 「関係」が すべてである。