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二十四式という物語

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太極拳二十四式は、起勢(チーシー)から始り、最後は 外回転の十字手(シツショウ) そして 収勢(ショウシー)で終わる。
楊名時健康太極拳では、起勢の前に番外として 内回転の十字手を加えている。
十字手で始まり 十字手で終わる、つまり元へ還って終わらない、というのが 番外十字手を加えた意味であろう。

太極拳の「太極」とは"終わりのない大宇宙"という意味であり、「拳」は武器を持たずに素手で戦う武術の意味であるから、太極拳は 無限なる大宇宙を相手に素手で戦う ということになる。
人間も大宇宙のなかの一つの小宇宙であり、自分自身との戦いという意味でもある。

無限大は記号∞で表されるが、これは『メービウスの環』に通ずるものがある。
帯を一回ひねって両端を張り合わせて得られる図形を 『メービウスの環』というが、表側をどうどうと進んでいったらいつの間にか裏側になって元へ戻ってきた という きわめて哲学的な意味を含んでいる。

穿ち過ぎかもしれないが、太極拳二十四式も『メービウスの環』に通ずるところがある。
二十四式は、基本的に "拗歩(ヤォブ)" つまり止まらないで前へ進むのであるが、"倒捲肱(ダオジュァンゴン)" で 『下がることによって衝突を避けて共存する』ことも必要だとの考え方に基づいて後退し、二回の "転身(チョァンシェン)"によって進む方向を変えて、最後は 最初の立ち位置に戻る。
まさしく『メービウスの環』である。

二十四式は、鶴と蛇が主役である。
二十四式を考案したものの頭には、蛇のように しなやかでありながら締め付ければ 骨をも砕く力強さをもっており、また 鶴のように 姿勢正しく優雅に気品のある 立ち居振る舞いが、理想の姿としてあったに違いない。

一番目の型"起勢"で定まった頭の高さは 二十四式中 ほとんど変えずに また敵である相手を意識して演舞するのが基本であるが、"海底針(ハイディゼン)"では 鶴の一本足立ちの如く 体をすっくとまっすぐに伸ばし 海底の針を探す如く その擬した一点に全神経を集中させて徐々に屈んでいく という動きで、いわばまったくの無防備で 頭の高さ位置もお構いない。

この型は 武道的には相手の意表を突くという意味があるらしいが、しなやかな円運動の流れを優雅に破って 二十四式に意外性を持たせている。

このように、太極拳二十四式は ひとつの「ネヴァーエンディングストーリー」を形成しているという見方もできそうだ。
そんなことを考えながら、毎日曜日の教室にかよっている。