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中国製冷凍ギョーザから

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海上自衛隊のイージス護衛艦 「あたご」 が、マグロはえ縄漁船に衝突した。

けさの朝日新聞の 「天声人語」 が、この事件に対するわたしの気持ちを 的確に表現してくれている。

・・・逃げも隠れもしない漁船を避けるのに、最先端の探知システムなどはいらない。
わが巨体の周囲には民間の船がいるだろうという想像力と、「弱者」 を見逃すまいとする海の守り手の責任。
それで足りる。



町工場おやじの持論・自説という この欄には、なるべく政治的なことがらを書くべきではないと、心している。
一小企業のホームページとはいえ、法人には違いない。
そこに併載している欄だからだ。

しかし、わが社のような 小さな会社の仕事に関する世の中の情勢も、もはや 政治を抜きにしては 考えることも 行動を起こすことも できなくなっている。
中国製冷凍ギョーザのことである。

この問題が報道されてから、ギョーザ手作り派が増えたらしい。
当社の客先のギョーザ皮専門メーカーでは、休日返上でフル生産だそうだ。
が、決して 手放しの好ましい状況ではない。

もともと もの作りとは 地道なものだと、わたしは認識している。
“気遣いのボボに蜂が刺した”’ 的な 急激な需要変化は、むしろ 製造業を疲弊させる。
ここでは、そんなことを言いたくて 欄を起こしたのではない。


食品衛生法という法律がある。
国民の健康と安全を守る、という法律だ。
仕出し屋や食堂が食中毒を出したとき、徹底的にたたかれる法律。

ところが この法律は、大企業に甘いのではないだろうか。

今回の事件は、昨年12月末に 千葉市で患者が病院に駆け込んだことに始まる。
この患者は、保健所にも訴えていたという。

たとえば、近所のうどん店で食べたきつねうどんが原因で 激しい嘔吐や下痢を起こした患者が発生したとする。
この患者を診た医師(病院)は、このことを直ちに 保健所へ通報しなければならない。
通報を受けた保健所は、この患者の食中毒が きつねうどんを食べたことが原因だと判断したならば、間髪をいれずに このうどん店を営業停止処分にするに違いない。

今回の中国製冷凍ギョーザを食べて異常を訴えた患者は、明らかに食中毒症状と判断できたはずである。
食中毒と判断したならば、その原因となる物質(病因物質)が特定できようができまいが、直ちに食品衛生法の適用を実施し、問題の冷凍ギョーザを販売した会社ジェイティフーズに 出回っている同じ商品の回収を命じるとともに ジェイティフーズを営業停止処分にして しかるべきではなかったのか。

さらに、もっと大きな疑問が残る。
国(厚生労働省)の対応の不可解さである。

舛添厚生労働相が テレビで 「絶対に食べるな」と国民に呼びかけているのに、行政は回収命令すら出していなかった。
ジェイティフーズの親会社である日本たばこ産業への配慮と とられかねない。

最大の責任者であるジェイティフーズは、以前は旭化成の子会社であった旭フーズで、現在は 日本たばこ産業の 子会社となっている。
日本たばこ産業は 誰もが知る大会社だが、その実態は その全株式の半数以上を国(財務省)が保有する 半官半民企業だ。

50年以上も前になるが、熊本で水俣病が発生したとき、県が水俣病の原因である水俣湾産の 魚介類の採取や販売を禁止しようとしたが、原因企業のチッソを守る通産省や化学業界の圧力で それが発動できず、被害を拡大してしまった。

日本たばこ産業は、社長が長く旧大蔵省の天下りが続いた会社であるからこそ、行政側が斟酌したなどと 水俣の二の舞のような陰口をたたかれることのないよう、真摯な経営姿勢を示す 絶好のチャンスだったはずである。

問題は、さらに深い。
われわれのような小さな企業でも、自社の名前で世に商品を出す以上、その商品に用いられている部品が、 たとえ自社工場で製造されたものでなくても(最近では大半の部品が出来合い品や外注部品で占められているが)、いったん自社ブランドの商品に組み込まれたからには、すべての部品に対して 当社がギャランティーしなければならない。
今回の冷凍ギョーザの問題の罪深いのは、その原因が事故なのか事件なのかに関わらず、その焦点を 「中国製」 に向けてしまっていることだ。

ジェイティフーズはじめ、中国での委託生産品を自社ブランドとして販売していて このような問題を引き起こした会社は、意図的に問題のすり抜けを企てたとは思えないが、マスコミ誘導で 日本国民の目を もっぱら 「中国製」 という 極めて難しく危険な火中に投じてしまった。
生活必需品の多くを中国製品に依存することに潜む問題と、今回の問題を 履き違えてはならない。

ジェイティフーズなどの名だたる食品会社は、日本国民に 健康で安全な食を提供するという 極めて重い仕事を担っている、そういう自覚と自負を持ってもらわないと困るのだ。
日清食品が 日本たばこ産業との業務提携を反故にした理由は、ここにある。

今回の冷凍ギョーザにまつわる問題は、イージス艦が マグロはえ縄漁をしていた小さな漁船にぶつかったことと、 同じ病巣に思えてならない。